割りばし事故死で、求刑禁固1年

元担当医に禁固1年求刑 4歳園児割りばし事故死

この事件、憶えていますか。

当時、4歳の子供が地域行事の際、綿菓子を食べて、その綿菓子の芯となっていた割り箸をくわえたまま転倒、救急車で杏林大学付属病院に搬送されましたが、結局、咽の上部から小脳に割り箸が貫通しており、それが致命傷となり、不幸にも亡くなった事故です。その後、CTなど十分な検査をせずに帰宅させたことに過失があるとして、救急で診察に当たった耳鼻咽喉科の医師が、しばらく経ってから刑事告訴されました。

裁判の争点はいくつかありますが、最も重要なのは、問診と咽の傷の状態、幼児の意識レベルなどから小脳損傷まで想定することが可能だったのかどうかということにあります。当時の報道を思い起こすと、親は事故の場面を見ておらず詳細な状況は診察時には不明。咽には小さな傷があっただけで、割り箸は口の中には発見できなかった。診察時、多少ぐったりはしていたが意識はあった。とのことでした。また、途中から折れた割り箸が、小脳に残っていたことがわかったのは、亡くなった後のことでした。

私は、報道などを通じてしかこの事件を知りませんので、医師に過失があったとか、なかったとかいえる立場にはありません。ただ仮に、医師個人に過失があったとしても、この医師個人だけに責任を押しつけてしまっていいのか、ということは、疑問に思います。

病院の救命救急外来というのは、いつどんな患者が来ても原則的には診療を拒めないわけですが、人的には通常の外来診療よりも手薄にならざる終えません。例えば、担当医師は、通常の日中の勤務が終わったら、休む間もなく救急外来にあたり、翌日も代休などはなく、通常通り、日中は日中で外来や病棟診療や手術をしなければなりません。また、専門外の患者さんも診なければなりませんし、専門医の判断を仰ぐ必要がある場合は、夜間なら自宅から呼び出さなくてはなりません。CTスキャンにしても、医師が直接とることは脳外や放射線科以外では少なく、大抵レントゲン技師に依頼しなければならないのですが、技師が常に待機しているとも限りません。
今回、訴えられた医師が過労の状態だったのかどうかは知りませんが、ほとんどの病院では、医師が救命救急外来に専念できる仕組みには、なっていないとは断言できます。もしこの事故が日中に起きていて、十分な体制の整っている時間帯に病院に運ばれたものなら、他の医師に相談することもできたでしょうし、CTが必要と思われれば、ためらわず撮ったでしょうから、少なくとも診断は早くついたものと思われます。

今回、本来は協力し合って病気に立ち向かうべき、患者側と医療従事者側が裁判で争わなければならない状況に陥っており、当事者にとっては非常に不幸なことだと思います。しかし、何故このようなことが起こったのかが明らかにされ、これを契機に救命救急外来の構造的欠陥も改善されていけば、今後、救われる命は多くなるのではないかと考えます。

↓参考になったら、押してください
☆人気ブログランキングへ☆
by jibikai | 2005-11-14 19:26 | Comments(0)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


by jibikkuma