額帯鏡


 例によって単なる気まぐれの思いつきからなのですが、新シリーズとして「耳鼻科医のお道具箱」というものを展開していきます。耳鼻科診察室にはどんなものがあるのか、紹介していこうという企画で、「病院や医院って何か訳のわからんものがいっぱい置いてあって怖い。」という人がいないとも限らず、こういった方にも安心感を持ってもらうため、情報公開していくのが目的です。
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 第一回目はこの写真の道具を、是非紹介したいと思います。よくコントなどで医者の役をする人が付けますよね。これは額帯鏡(がくたいきょう)といいまして、聴診器と並んで医者のシンボルのように思われていますが、実はこれを使うのは耳鼻科医ぐらいなものなのです。もちろん、当院のキャラクターである”ジビックマ”(左のイラスト)も額帯鏡をしています。使わない時は、上に反転させておきますが、その場合ジビックマのように黒い面が正面を向くのが正しいのです。コントでは逆に鏡の面が正面を向いていることが多いのですが、それをテレビの前で指摘すると、家族には「どうでもいいでしょ、コントなんだから。」とたしなめられます。でも、耳鼻科医としては、やはりこだわりのある部分なんですよ。
 
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それはさておき、この額帯鏡、どうやって使うのかといいますと、鏡を患者さんの方に向けて、自分は鏡の真ん中の孔から、覗くわけです。患者さんの座る椅子の隣には白熱灯がぶら下がっていて、この光を額帯鏡で反射させて、見たいところを照らします。なぜこんなややこしいことをするのかといいますと、耳鼻科で診るのは耳、鼻、咽と暗い穴の奥ばかりなので、そこまで光を入れるための工夫なのです。
 さらに、咽と鼻の境目にあたる後鼻孔(こうびこう)というところや、気管の入り口にある声帯というためには、さらにもう一つ、棒のついた小さく丸い鏡を口に入れて、反射させて見ていました。さらには、左手にこの小さい鏡、右手に鉗子を持って、声帯ポリープを取ったり、咽のずっと奥に刺してしまった魚の骨を抜いたりしていました。この小さい鏡を自由自在に操るのは、もう職人芸の世界で、昔の耳鼻科医はこれが出来れば、外来処置に関しては一人前という感じでした。
 ところが、ちょうど私が医者になった頃、大きな技術革命が起こりました。それは、いわゆるファイバースコープというものの実用化です。胃カメラを細くしたようなものなのですが、自在に曲がる光ファイバを咽に入れて、奥を覗く物で、これによってさほど熟練を要すことなく、鼻の奥でも声帯でも見られるようになりました。さらにここ数年まえからは「電子スコープ」という物が主流になりつつあり、高画質化が最近のトレンドです。同時に手術用顕微鏡という物も低価格化と高機能化が進んで、特に耳の診察や細かな処置などに、ごく普通に使われるようになりました。
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 ところが、そういった最新鋭の機器があってもやはり、額帯鏡のコンパクトさや、手軽さと言った魅力はやはり捨てがたいものです。前近代的遺物とは思いつつも、まず、真っ先に耳や鼻や口から咽を見るのには額帯鏡を使い、さらに必要に応じて、ファイバースコープや顕微鏡を使うことが多いのです。
 なにも医療機器に限らず、道具は古い、新しいにかかわらず、使い勝手が一番重要ですよね。額帯鏡は、徐々に重要度は下がってきているとはいえ、もう少し生き残る道具かなと思います。

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Commented by pitanpi at 2006-06-19 19:53 x
額帯鏡、名前初めて知りました。そういえば小さい頃連れて行かれたお医者さんがよくこうゆうの頭に着けていた記憶が・・・なんか怖かったな。
今家の近所の耳鼻科の先生は、症状を言うとすぐ看護師さんに「あれ!」と言ってファイバースコープ突っ込む!ウゲッとなるので私は嫌い。耳にはまだ入れられたことがないけど。
道具って大事ですよね!お医者様の道具とは全然違いますけど、私皮むき(人参とかジャガイモむくやつ)とても使いやすいのがあって、どうしても同じ物がほしくて探し回り、見つけたお店の在庫全部買ってきた事があります(10個ほど)
下世話なこと聞いてすみませんが、額帯鏡っておいくら位するものなのですか?前に聴診器が10万近いものがあると聞いたこと事があるのですが。
Commented by ばなな at 2006-06-19 22:23 x
額帯鏡って言うのですねー。我が子は小さい頃これを見ると(正確には先生自体を見ると)泣いていました。そして暴れながら診察の椅子に座り、先生や看護師さんの手に噛みつくのです(笑)アンパンマンの絵でも書いてあるといいかも知れませんね(^^ゞ

ファイバースコープ:私はよく鼻に入れられます。好きな人には見せられない苦しい顔になります。
Commented by jibikai at 2006-06-19 23:06
>pitanpiさん、額帯鏡ってやっぱりモノとしてはわかっても、名前は全然一般的じゃないのですね。どうりで今日記事を書いていて、変換しようとしたら、”学胎教”とか”楽隊強”なんて出てくるわけですね(泣)。ちなみに、額帯鏡は2万程度したような記憶があります。何しろ今使っているのが、医者になってからずっと使っているモノなので、忘れてしまいました。他のに換えると、頭になかなかフィットしないし、光が集まる距離も微妙に違うので、なかなか換えられないのです。
Commented by jibikai at 2006-06-19 23:12
>ばななさん、確かに、白衣もそうですが、額帯鏡も子供にとっては恐怖の象徴なのかも知れません。でも噛みつき攻撃は、勘弁してほしいです。額帯鏡には書けませんが、自分の手の甲にアンパンマンやキティちゃんの絵を描いて診療したことはあります。
Commented by ばなな at 2006-06-20 07:32 x
おはようございます。
手の甲に絵を・・・あ~先生に我が子を見て頂けていたら、耳鼻科恐怖症にはならなかったろうなぁ。
では先生の優しさにポチッ!(^^)!
Commented by jibikai at 2006-06-20 08:55
>ばななさん、最近はあまりお子様サービスしてないかも知れません(汗)。
そのかわり3歳以上ぐらいだと、何か痛い処置とか検査をしなくちゃいけない場合には、大人並みに本人に説明するようにしています。細かいことはわからなくても、なんとなくは理解してくれることもありますので。2歳児とかそれ以上の年齢でも、なかなか話を聞いてくれない子は、粘り強く説得するか、押さえつけて処置するか、待てるものはいったん突き放すか、ケースバイケースです。子供より早く親が根負けしてしまい、治療を放棄するケースもあり、難しいです。
Commented by まい at 2006-06-22 11:55 x
退院後、初の診察に行って参りました。予約時間より2時間近く待った後、入った診察室には、額帯鏡をした主治医の先生がにっこりと笑っていました。なんだか額帯鏡をつけた姿を見るホッとしますよね、私だけかしら。私は2時間待ちでしたが、先生は朝からずぅ〜っと診察をし続け、きっとお昼休みもほとんどとれないのでしょう(11半の予約で終わったのが1時半頃でした)。それでも、夜遅くまで、病棟にいらっしゃる姿も拝見していたので、ほんとうに頭の下がる思いです。
喉の痛みはほとんどなくなりました。あの痛くて、辛かった日々が夢のようです。
Commented by jibikai at 2006-06-22 17:14
>まいさん、こんにちは。経過が良くて何よりですね。病院の外来は、混むところはすごく混みます。私も病院勤めをしていたころには、午前の外来が何時になっても終わらず、昼ご飯を食べられないことなども、多々あるほどで、なんでこんなに患者さんが多いのに、赤字経営なんだろうと不思議に思っていました。
by jibikai | 2006-06-19 12:54 | 耳鼻科医のお道具箱 | Comments(8)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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