聴力検査〜その4〜

聴力検査の話の続きです。

今日は色々なオージオグラムのパターンから、どう判断するかという話です。

最初は、こんな感じのオージオグラムです。
聴力検査〜その4〜_e0084756_1118434.gif

これは、聴力が正常な人のオージオグラムの1例です。
 縦軸の聴力レベルは国際的な基準で定められておりまして、正常な人がぎりぎり聞こえるか聞こえないかというレベルを、0 dBとして制定してあります。そうしますと、左右とも全部、0 dBの真っ平らな直線にならないとおかしいことになりますが、実際には正常者であっても閾値は5~10 dBあたりに集中します。これは、実験室レベルでやる検査と実地でやる検査の違いのせいもありますし、国際基準と日本人の閾値が若干異なるせいもあるかも知れません。また、個人差もありますし、同じ人を時期をおいて検査しても少し変動しますので、およそ15か20 dB以内は正常と考えてよろしいかと思います。
 また、正常では左右差はほとんどありませんので、右(赤)と左(青)はほとんど重なってきます。これが例えば右が0dB、左が20 dBであれば、例えそれぞれは正常範囲内であっても、左の難聴と考えた方が良いと言うことになります。


次に滲出性中耳炎のオージオグラムの一例を示します。
聴力検査〜その4〜_e0084756_11204551.gif
滲出性中耳炎では、鼓室内に水や粘液が溜まって、鼓膜が振動しづらくなります。その結果、内耳まで音の振動が伝わりにくくなって、難聴を来します。片側だけのこともありますが、両側のことも多いです。
幼児期の子供には多いのですが、大人には少ない中耳炎です。
 
 気導の閾値は30 dB前後と軽度の上昇(閾値の上昇とは、聞こえが悪くなるということ)を示しますが、骨導は正常で、伝音性難聴のパターンを示します。ちなみに、この気導と骨導の差をAir-Bone gap(A-B gap)あるいは、気ー骨導差などと言い、これがあれば伝音系の異常、部位的には外耳か中耳の異常があることを示します。

 滲出性中耳炎は子供、特に幼児期に多く、それがちょうど言葉を覚えたり、友達や親子のコミュニケーションを身につける時期でもありますので、きちんと治療することが大切です。
「滲出性中耳炎は別に痛むわけでもないし、鼓室に溜まった滲出液もいずれは無くなるので治療の必要はない。」と、耳鼻科以外の医師が言うこともあるようですが、この医師は難聴が精神的な発育に及ぼす影響は考えているのだろうかと、ちょっと心配になります。
ということで、滲出性中耳炎は聴力検査の科である耳鼻咽喉科で、診てもらうべき疾患なのです。

さて、今回は聴力正常な場合のオージオグラムと、伝音性難聴の代表である滲出性中耳炎のオージオグラムについてお話ししました。

次回は、混合性難聴と感音性難聴について例を挙げてお話ししたいと思います。

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Commented by osha-p at 2007-07-17 22:42
中公新書「耳科学」では、アメリカ人とアフリカだったか原住民に近いくらしの人と比べたオージオが載ってましたが、あきらかに原住民の方がすぐれていました。今のようなくらしだと始終音に囲まれてるからかもしれませんね。
Commented by ちょこ at 2007-07-19 08:38 x
先生、おはようございます。
「正常例」を見ると、自分の正常な状態(元の状態)を見てみたかったなぁと思います。
小さい頃よく中耳炎になって、耳鼻科に通ったことを覚えていますが、その時も聴力検査したのかな?って思います。私の小さい頃となると30年近く前で ”手書きの時代” だったようですから、してないかもしれないですね。
しかし幼稚園の造りはよく覚えていないですが、耳鼻科のことは診察室の中の造りも、先生の顔も覚えています。すっごく通ってたんでしょうね。。。(しかも怖くて、ひたすら観察してたんだろうなぁ)
Commented by jibikai at 2007-07-19 16:27
>osha-pさん、こんにちは。
人種間の聴力の差は詳細には分からないのですが、普段、騒音にさらされる機会の少ない分、原住民の方が良いのでしょうね。また、狩りなどをするのに、余計に聴覚を鋭敏にしておく必要がある、というのもあるのかも知れませんね。
Commented by jibikai at 2007-07-19 16:34
>ちょこさん、こんにちは。今回ご紹介している標準純音聴力検査は、検査の性格上、ある程度大きくならないと正確に出来ないという欠点があります。幼稚園ぐらいですと、個人差もあるのですが、出来たり出来なかったりです。
今でも、子供の耳鼻科疾患は長くかかるものがどうしても多くなってしまうのですが、通う回数は以前と比べて少なくなってきています。
それには鼻の吸引や耳管通気やネブライザーに比べて、内服薬のウエイトが大きくなってきているためと、子供もなかなか忙しくて通えないという事情があるようです。
Commented by 橋本和晃 at 2016-09-06 20:04 x
はじめまして、インターネットで聴力検査のことを調べていて、こちらのサイトにたどり着きました。以前、マイナスデシベルの音が聞こえるとの判定をもらっていてとても不思議でしたが、記事、図を見て理解することが出来ました。
Commented by jibikai at 2016-09-07 06:41
橋本和晃さん、記事がお役に立てて、良かったです!コメントありがとうございます。
by jibikai | 2007-07-17 11:37 | 耳のはなし | Comments(6)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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