耳鼻科医の経済学(デフレ・スパイラルの罠・その1)

耳鼻科の診療報酬が内科との比較でかなり少ないことを、前回書きました。何故そうなっているのかというと、色々な要因があるのですが、そもそもが診療報酬の決め方が耳鼻科に不利なようになっているのには間違いありません。

例えば、再診料に上乗せして請求できる「外来管理加算」なんていう項目があるのですが、これは1回通院あたり¥520です。ネーミングからしてなんだかわかりにくい項目なのですが、要するに外来診療においての詳しい説明の対価ということになっているようです。まあ、医者が患者さんに説明はするのは当たり前ですので、毎回請求できそうなものですが、実は算定するには要件があります。それは「検査や処置を行わなかった場合。」ということなのです。おそらく、無駄な処置や検査を行わないための抑止力としての効果を厚労省(この項目が設置されたのはまだ“厚生省”の頃でしたが)は狙っていたのかも知れません。「無理に検査や処置をしないで、おとなしくこの点数(金額)をもらっておいた方が得ですよ。」ということだったのでしょう。

まあ、それはそれで無駄な検査や処置を少なくして、医療費を抑制する効果はあったのかも知れませんが、大きな矛盾も生み出しました。それは、場合によっては必要な処置をわざとしないか、処置をしたのにしないことにした方が、より高い診療報酬を得られるということです。例えば、耳鼻科では簡単な耳垢の除去や耳の湿疹などに対して軟膏を塗ったりします。これは耳処置として算定するのですが、悲しいかな、点数にしてわずか25点(250円)です。しかも片方やっても両側やっても同じ点数という理不尽さ。ということは、耳が痒い、あるいは痛い患者さんで、薬を付けた方が良いと思っても、何もしないで説明だけした方が保険診療上は評価されるということになるのです。ところが、やはり炎症があれば消炎剤を塗ったり、余計な耳垢があれば取りたいと思うのが耳鼻科医の本能です。しかも、バカ正直にその通り算定すると、何もしないよりも¥270円安くなるという仕組みです。しかも、ただ耳カスをとったり軟膏を塗ったりするにしても、意外にコストはかかるもの。医者、看護師の労力、材料費(綿棒の用意や器械の洗浄、滅菌など)を考えると、やっただけ損という状況になっています。

以上は耳鼻科が診療報酬としては不利な一例です。さらに内科の病気にはそれぞれ「何とか管理加算」という点数が沢山あるのですが、耳鼻科の病気にはありません。これでは、1回診療あたりの点数は高くなりようがないというものです。私が医者になったときには既にこのような「格差」はありましたので、どういう経緯でこうなっているのかは知りませんが、なにか「大人なルール設定」がかつてなされて、そのままになっているのでしょう。

結局、点数が抑えられている分、耳鼻科は「数をこなさないと」経営が成り立たないような仕組みになっているわけです。

ところが、この「数をこなさないと」というのがかなり時代に逆行した考え方であり、そう思った時点で、もうデフレスパイラルの罠に嵌っていると思うのです。


以下、耳鼻科医の経済学(デフレスパイラルの罠・その2)に続く・・・
Commented by hgp at 2008-02-06 19:49 x
はじめまして!
ブログ拝見しました☆

私は、医師人材紹介業を行っております。
ぜひ、当社のHPを御覧頂きたく、メールさせて頂きました。

今、転職を考えていらっしゃらなくとも、登録は無料ですし、
転職希望のお知り合いの医師の方を『ご紹介』頂くだけで、紹介料を差し上げております。
医療機関とのマッチングは当社にて行いますので、本業に差し障ることはございません。

お忙しい医師の方のセカンドビジネスとして、2008.2現在19名の医師の方にご登録頂いております。
ぜひ、一度HPを御覧頂ければ幸いに存じます。

株式会社HGパートナーズ
担当:原田・村上
〒160-0022
東京都新宿区新宿5-17-11 白鳳ビル7階
℡03-5939-7724 fax03-5939-7725
E-mail:info@hgp-med.com  
HP: http://hgp-med.com/
Commented by jibikai at 2008-02-06 22:34
>hgp さん、了解です。
Commented by yan7117 at 2008-02-06 22:59
こんばんは。はじめておじゃましました。
風邪をひくと耳がよく痛くなります。最近聞き取りにくく病院に行きました。耳痛は外耳道炎、聴力検査は異常なしでした。聞き取りにくいのは加齢(30代です)のせいなんだろうか…と落ち込んでいます。音は聞こえるのに言葉が聞き取りにくいこのストレス。なにか改善する方法がないものかと探して、こちらに来ました。またおじゃまします。
Commented by jibikai at 2008-02-07 08:36
>yan7117さん、ようこそ!
聴力検査正常というのには、ある程度の幅がありますから、その幅の中で聴力が変動しているということはありえます。しかし、少なくとも明らかに病的とは言えるほどのトラブルはないと考えて、ひとまず安心しても宜しいのではないでしょうか。

そういった軽微な聞こえのトラブルの原因としては、耳管機能障害やごく軽い低音障害型感音難聴などが考えられますが、異常がごく軽いだけに逆に診断は難しくなるかも知れません。そのような場合、「経過観察のみ」、「耳管通気法」、「ビタミン剤あるいは高浸透圧利尿剤の内服」などが行われることが多いかと思います。

言葉の聞き取りは、「語音聴力検査」というので調べることは可能ですが、普通の聴力検査で異常がなければ、ほとんどの場合異常を示すことはないので、多分主治医の先生はそこまでは調べなかったのでしょう。
by jibikai | 2008-02-04 18:14 | Comments(4)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


by jibikkuma