耳鼻科医の診療日記
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耳鳴について考える 〜治療について〜
今回も耳鳴の話の続きで、治療について書きます。

耳鳴の治療としては、急性期と慢性期とに分かれます。
急性期、すなわち耳鳴が起こって間もない時期には、それと同時に急性の内耳障害が起こっていることが多いと思われます。具体的な病名としては、突発性難聴、低音障害型感音難聴、メニエール病、音響外傷などということになりますが、これらの疾患では、原因となっている疾患の治療をまずは行うべきです。

一方、慢性の耳鳴や、いつからかはっきりしないもの、難聴も伴わない耳鳴の場合は、前回お話した様な仕組みで、元々は内耳で起こった耳鳴が、脳における悪循環で、持続したり増強したりしていていることが考えられますから、これを何とかしなければなりません。
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(脳において、負のスパイラルが起こって耳鳴りが増強しているイメージ)


慢性的な耳鳴では、脳の中で耳鳴を増強するような、「負のスパイラル」が発生していると考えられます。それは、耳鳴の信号が大脳皮質で無害な音と無視されずに、大脳辺縁系に伝達されて不安や恐怖感を起こし、それが自律神経のバランスを崩しイライラする。そうなるとさらに大脳皮質はまた耳鳴を注意して聞こうと集中してしまい、さらに悪くなる、というようなことが何重にも繰り返されるうちに、内耳からの入力がなくとも、耳鳴を感じるまでに至る、というメカニズムが考えられています。

脳で耳鳴が増強しているような状況では、この「負のスパイラル」を断ち切ることが重要です。そのためには、脳の中で一番理知的かつ合理的な判断のできる大脳皮質での、耳鳴に対する考え方を転換していくことです。「耳鳴が危険な病気のサインではないこと」、「多くの人が経験するごくありふれた症状であること」、「それが増強するには脳の働きが悪循環を起こしていること」などを理解することが、治療には必要です。これにより、大脳辺縁系でも耳鳴を不快なものと判断しなくなり、自律神経失調症状も抑えられてくるというのが狙いです。

ただし、いくら理性的に判断しろと言っても、やはり耳鳴が強いときにはイライラしますから、これを軽減するために、音響療法というのを併用することも多いです。要するに静かな環境を避けて、相対的に耳鳴を小さくするという考え方です。音源としては、軽症の場合は、わざとチューニングをずらしたFMラジオで雑音を流すとか、波の音のCDを流すとか、難聴のある人であれば、補聴器を付けて環境音が聞こえる状態を作ることなどです。耳鳴に対する苦痛度が高い場合は、サウンドジェネレイターという補聴器と同じ形をした、雑音を流すための専用の機械が必要となります。

今回ご紹介しました耳鳴に対する治療法、すなわち耳鳴の起こる仕組みを理解することにより、過度の警戒を起こさないように、考えを変えていくことと、雑音により耳鳴を相対的に小さくして慣れていくことが、実は最近注目されているTRT (tinnitus  retraining therapy)という治療法なのです。

耳鳴の治療というのは、色々な治療法が流行、廃れを繰り返してきました。それだけ、決め手がなかったということになるわけなのですが、TRTはかつての治療が耳鳴の消失を目的としていたのに対して、耳鳴が意識のレベルに上がってこないように、いわば慣れてしまって、苦痛を避けるところに主眼をおいている点で異なります。薬を処方すればそれで済むという治療ではありませんから、それなりの難しさはありますが、期待できる治療法ではあると思います。
by jibikai | 2008-07-07 18:06 | 耳のはなし | Comments(0)