耳鼻咽喉科の守備範囲とは?

前回に引き続き、診療科の話です。
耳鼻咽喉科というのは、文字通り耳と鼻と咽喉(いんこう;すなわちノドのこと。咽と喉は各々違う部位を指すのですが、その話はまた今度。)を診療する科ということになります。実はその他にもみる範囲は意外に広く、おおよそ鎖骨から上、眉毛よりも下の範囲は耳鼻科の範疇ということになります。耳、鼻、ノド以外で、具体的には顔面から頸部表面に近い部分や、舌などの口の中(ただし歯は除く)、気管や食道の上部も耳鼻咽喉科の守備範囲です。また脳神経のトラブルとして、めまいや顔面神経麻痺といった病気があるのですが、これも耳鼻咽喉科の守備範囲です。

各科同じだと思うのですが、患者さんの側から守備範囲をあまりに過小評価されると、がっかりするし、自分の科の守備範囲を超えた病状を訴えられても困るということがあります。意外とあるのが、例えば耳や鼻の病気で通っている人が、「ところで舌が痛いんだけど、何科に行ったらいいですか?」なんて真顔で聞いてくることがあります。もちろん「こちらで診ますよ。」と答えるのですが、ちょっと心外ではあります。また、逆に腹痛や吐き気で受診する方もいて、これはこれで困ります。

ということでもう一度繰り返しますが、
耳鼻咽喉科の守備範囲は、鎖骨と眉毛の間です。

とはいえ、診療科にはオーバーラップする範疇が多々あり、どっちに行ったら迷うケース、症状もしばしばあります。耳鼻咽喉科の場合は、内科、外科、脳神経外科、小児科、精神科の守備範囲としばしば重なってくる疾患や、症状があろうかと思います。(下図参照)
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特に多いのは、風邪症状の場合に、大人であれば内科か耳鼻咽喉科か、子供なら小児科か耳鼻咽喉科かで悩むことがあるのではないでしょうか。正直言って、風邪だけならどちらでも大丈夫。なぜなら、風邪というのはほとんどがウイルスの感染であり、免疫が付けばいずれにしても治ってしまうものだからです。

問題になるのは、風邪でもありがちな症状ながら、それが長引くときです。咳でも鼻汁でも咽の痛みでも、2週間を超えて続くのであれば、風邪じゃない可能性があり、その場合は診療科によって診断や治療方針が変わってくることがあります。
 
例えば、長引く咳の場合、内科や小児科では「喘息」という病名が一番多く付けられますが、耳鼻咽喉科で診ると「アレルギー性鼻炎」、「副鼻腔炎」、「喉頭アレルギー」などと診断される方が多くなります。それで、どちらかが誤診か、ということになりますが、それほど大げさなものではなくて、まるで「盲目の男達と、象」の逸話のようなもので、ある意味全て正解に近いが、病態全てを言い尽くしていないことになろうかと思います。実際、喘息とアレルギー性鼻炎、喉頭アレルギーというのはいずれも気道のアレルギーなので、合併も多いし、いずれも刺激に過敏なので、咳も共通の症状です。違いといえば、アレルギーの起きる部位がちょっとずつ違うだけ。また、副鼻腔炎による咳というのも実は意外に多くて、後鼻漏といって鼻汁が咽に流れ落ちて刺激している状態です。副鼻腔炎は内科、小児科では正しく診断できません。ただし、これも気道アレルギーの一環として起こっていることも多いし、細菌性のものでは気管支炎との合併が多いです。ということで、内科や小児科で喘息とか気管支炎の診断の元、治療を受けて、まあ結果オーライということになろうかと思いますが、治ってしまっているものも実は多いんじゃないかと推測しています。

逆のケースでは耳鼻咽喉科で急性喉頭炎や急性副鼻腔炎で治療中、熱が出たとして内科や小児科を受診して、肺炎や気管支炎などを指摘される、といったケースもあります。これらはいずれも風邪から続発して、各々合併しやすい疾患で、治療も抗生剤と対症療法ということで共通しています。ただ、肺炎となると全身状態が悪くなるため、補液なども必要になってくることが違う点です。

他にも、内科、小児科疾患と耳鼻咽喉科疾患がオーバーラップしてくるケースは多々あるのですが、いずれまた、別のエントリーで解説したいと思います。

次に、脳神経外科と重複して診ている疾患や症状には、めまい、頭痛、顔面痛などがあります。
たとえば、めまいですが厳密に言えば頭の中の循環不全や腫瘍などによるめまいは中枢性めまいといって、脳神経外科領域、メニエール病などの内耳性めまいは耳鼻咽喉科、起立性低血圧症によるめまいの場合は内科でみるのが妥当なのかも知れませんが、クリアカットに分けられないケースもあるし、患者さんもあちこちにかかるのは負担でもあるので、特に生命に関わるケース以外では、初診したところでずっと診ていたりすることも多いです。

最後に、精神科との共通領域としては、心因性の様々な病気があります。心因性めまい、耳鳴の一部、舌痛症といって何も異常がないのに舌が痛む病気、咽喉頭異常感症、
自己臭症など様々な疾患があります。神経症と言っていいレベルであれば耳鼻咽喉科で治療して差し支えないことがほとんどですが、うつ病の場合は精神科での治療が必要です。

このブログのタイトルは「耳鼻科医の診療日記」としていますが、正式には耳鼻咽喉科で、省略している「咽喉」とはノドのことです。じゃあ、耳、鼻とノドだけを診ている科なのかというとそうでもなくて、もっと広い範囲を診ています。それだけ、他の科と重複して診ている症状や疾患もあるのですが、それぞれに得手、不得手はありますから、異なった科同士の診診連携は今後進めていくべき課題と思います。
Commented by ちょこ at 2008-09-04 18:03 x
先生こんにちは。
嫌がらせのような質問ですが・・・「食物アレルギーによるじんましん」は先生のところの「アレルギー科」の範疇に入るんでしょうか?
鶏卵アレルギーとスギ・ヒノキ花粉アレルギーの知人は、可哀想に皮膚科と耳鼻科の両方に通ってました。
しかし、どこに行くかは悩ましいですよね。そういう事こそ学校で教えて欲しかったです。
Commented by jibikai at 2008-09-05 08:50
ちょこさん、こんにちは。
食物アレルギーは、もちろん「アレルギー科」の範疇ですよ。まあ、アレルギーというのは結局の所、全身性の疾患なので、アレルギー性鼻炎の方でも、喘息とか皮膚のアレルギーを合併している方は多いです。そういった場合、あちこちの科を掛け持ちで受診しなくても済むようにというのが、もともと「アレルギー科」のできたいきさつです。
どの科にかかったら良いか悩むケースっていうのは、おそらく医者が考えているよりも多いのでしょう。その点、総合病院ならば案内係的な人がいるから安心なのかも知れませんね。診療所の場合、もし病状と受診した診療科が一致しなければ、また別の所に行かなくてはならないというのは、億劫だし、緊急の場合は困りますよね。そんな理由で、個人医よりも大病院を選ぶ人も多いのかも知れません。
by jibikai | 2008-09-02 18:29 | 耳鼻科全般 | Comments(2)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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