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耳鳴の原因と治療
以前も耳鳴について記事を書いていますが、大分時間も経過しましたしましたので、改めて記事にしてみます。

耳鳴の分類

耳鳴はタイプ、発生部位、原因となった疾患などにより、色々に分類されます。


自覚的耳鳴と他覚的耳鳴

自分にしか聞こえない耳鳴が自覚的耳鳴で、他人にも聞くことの出来る耳鳴が他覚的耳鳴です。他覚的耳鳴は稀で、ほとんどが、自覚的耳鳴です。そのため、耳鳴のつらさがなかなか他人に伝わりにくいことが多いといえます。

発生部位による分類

中耳性、内耳性(もしくは蝸牛性)、中枢性等に分けられますが、一番多いのは内耳性と考えられます。

原因となる疾患

中耳疾患

急性・滲出性・慢性などの各種中耳炎、耳硬化症、耳小骨離断、耳管機能不全など。

内耳(蝸牛)疾患

突発性難聴、メニエール病、低音障害型感音難聴、老人性難聴、急性音響外傷、騒音性難聴など。

脳(中枢神経)の疾患

聴神経腫瘍、神経の変性疾患や血管疾患、心因性難聴、鬱病などの精神病など。

脳や聴器以外の疾患

高血圧、動脈硬化、頭蓋内や頸部の血管の走行異常、耳の周囲の筋肉の痙攣など。

耳鳴のおこる仕組み

耳鳴の起こる仕組みを理解するため、耳から脳へ、音の信号がどのように伝わっていくかを考えてみましょう。

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1: まず、音というのは空気の振動なのですが、その振動が外耳道を通り、鼓膜にぶつかります。

2: 鼓膜が振動して、3つある耳小骨に順繰り振動が伝わっていきます。
(ここまでが伝音系といい、主に中耳の働きです。)

3: 耳小骨の振動を受けて、内耳では音の振動のエネルギーを、電気的エネルギーである神経の活動電位に変換します。

4: 内耳で起こった活動電位は、蝸牛神経を通って、脳幹という脳の基本的な仕事をする場所へと入ります。脳幹では、音の周波数を解析したりしていると考えられています。

5: さらに音による神経の活動電位は、大脳皮質へと伝えられていきます。大脳では、より高次な音の分析、例えば言葉の理解や、安全な音なのか危険な音なのかなどの判断が行われます。

以上が、聴覚伝導路といわれる、音の信号が耳から脳に入り、理解や判断されるまでの仕組みです。

耳鳴の大部分を占める自覚的耳鳴は、通常は音があるところで起こるべき活動電位が、音のないところでも起こってしまい、耳鳴として大脳で認識されて生じます。

聴覚伝導路のどこで耳鳴の元となる活動電位の発生源は、内耳や蝸牛神経が多いと思われます。

また、普段は周りの生活雑音などにかき消されて自覚していない耳鳴が、難聴によって周囲の音が聞こえなくなる分、顕著化してくるようなものもあると考えられています。

耳鳴は、聴覚伝導路いずれかで発生するのですが、これを認識するのは大脳の役割です。

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特に大脳辺縁系という部分の働きが最近注目されています。大脳辺縁系というのは、いわゆる旧い脳といわれる部分で、緻密な思考というよりは、心地良いか不快であるかの判断といった風な、原始的な感覚を司っている部分で、自律神経と連携して働いています。

自律神経は内臓の働きをコントロールしていますから、音が不快だと感じた場合に、自律神経の命令で心臓がドキドキしたり、胃腸の具合が悪くなったりすることも起こりえるのです。

同じことは、耳鳴でも起こると考えられます。最初に内耳で発生した耳鳴を大脳辺縁系が不快な音として認識した場合、自律神経が刺激されて、内臓の調子が悪くなり吐き気がしたり、脈が変動したりすることもあるのです。そして、この経験が再び大脳にフィードバックされ、耳鳴があるために非常に不快な経験をしたのだと思い込みます。そうすると、大脳は耳鳴りは危険なシグナルと認識するようになり、耳鳴りをより一層注意して聞くように習慣づけられます。そうすると、さらに耳鳴に敏感に反応してしまうようになるという悪循環に陥るのです。

一度悪循環に陥ってしまうと、いつもは聞き流せるような耳鳴も、気になって過剰に反応してしまうようになる、というのが耳鳴が頑固になってしまうメカニズムです。

耳鳴の治療

 耳鳴の治療としては、急性期と慢性期とに分かれます。急性期、すなわち耳鳴が起こって間もない時期には、それと同時に急性の内耳障害が起こっていることが多いと思われます。具体的な病名としては、突発性難聴、低音障害型感音難聴、メニエール病、音響外傷などということになりますが、これらの疾患では、原因となっている疾患の治療をまずは行います。

一方、慢性の耳鳴や、いつからかはっきりしないもの、難聴も伴わない耳鳴の場合は、元々は内耳で起こった耳鳴が、脳における悪循環で、持続・増強していることが考えられますから、この悪循環を断ち切ることが大切です。そのためには、「耳鳴の起こっている原因を理知的に理解し、過度の心配を抱かないようにすること」、「耳鳴りに意識を傾けないように習慣化する」ことが有効です。いわば大脳で大きくしてしまった耳鳴りを、大脳の働きで小さくしてしまおうという治療法で、これが当院で行っているTRTです。

TRT とは?

TRTとはtinnitus retraining therapyの略です。直訳すれば、”耳鳴再訓練療法”ということになりましょか。再訓練というのは、耳鳴を過度に警戒して、耳鳴に集中してしまう癖を捨て去って、耳鳴を聞き流せるようにするように習慣づける、という意味です。


TRTの実際

顕微鏡や内視鏡を使った耳の診察、聴力検査、必要に応じて耳管機能検査やティンパノメトリィ、CTなどを行い、耳鳴の原因を診断します。その上で、耳鳴の起こっているメカニズムを説明します。耳鳴の正体を明らかにすることにより、過度の不安を抱かないようにして頂くのが狙いです。

さらには、音響療法を併用します。具体的には静かな環境を避けてもらうため、1日のうち数時間程度、音を流しておく治療です。音源としては、軽症の場合は、わざとチューニングをずらしたFMラジオの雑音、波の音のCD、難聴のある人であれば、補聴器を付けて環境音が聞こえる状態を作ることなどです。耳鳴に対する苦痛度が高い場合は、サウンドジェネレイターという補聴器と同じ形をした、雑音を流すための専用の機械が必要となります。

ただしサウンドジェネレイターを購入するまでもない、という方にはiPhoneやiPad、Androidで使えるアプリもありますので、これらのユーザの方にはお勧めです。

いずれにしても、音量は耳鳴が完全に消える程大きくなく、半分ぐらいになる程度が適当です。他の音により、やや圧縮された耳鳴を聞くことにより、大脳が耳鳴のある状態に慣れることを促すのが音響療法です。TRTは、病状についての説明と理解、そして音響療法の二つの柱から成る治療なのです。

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by jibikai | 2014-08-12 15:45 | 耳のはなし | Comments(3)
他覚的耳鳴
耳鳴には自分にしか聞こえない、自覚的耳鳴と、ゴム管などを入れることによって、患者さんの耳から実際出ているのを聴取することの出来る他覚的耳鳴があります。

頻度的には少ないのですが、他覚的耳鳴につてお話しします。他覚的耳鳴は血管性耳鳴といって耳の周囲の血管内を血液が流れる際の乱流によるもの、筋性耳鳴という筋肉の異常収縮、けいれんなどによるもの、その他に分かれます。

血管性耳鳴の原因は頸動脈狭窄、グロームス腫瘍、動静脈瘻などがあります。筋性耳鳴の原因となる筋肉は、アブミ骨筋、鼓膜張筋、耳管周囲筋や軟口蓋などです。その他にも、耳管の開閉や顎関節運動に伴う耳鳴があります。

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by jibikai | 2010-06-13 18:23 | 耳のはなし | Comments(0)
iPhone & iPod touchが耳鳴の治療器具に!
今回も耳に関係したiPhoneアプリの紹介です。
iPhoneアプリはiTunesというMacユーザならおなじみのソフトから、iTunes storeに行けばダウンロードできます。毎日多くのアプリケーションがアップロードされていますから、iPhone & iPod touchのユーザなら時々除いてみることをお勧めします。
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さて今日ご紹介するのは、Tinnitus Maskerというアプリです。tinnitusは耳鳴のこと。maskerというのは覆い隠すものということで、要するに音(ノイズ)を聞くことによって耳鳴を軽減しようとするものです。左のダイアルでノイズの種類を、右のダイアルでノイズの流れる時間を設定します。それからボリュームもセットして、後はイヤホンかヘッドフォンを装着するだけです。

そもそも、耳鳴の治療法としてマスカー療法というのがありまして、それは専用の雑音(マスカー)発生装置を使って耳鳴が消える音色、音量の音を一定時間聞くことによって耳鳴を消失させようという治療法です。ただし、専用の雑音発生装置は外国産でして日本では販売しておらず、そのため日本国内では普及しませんでした。
その後、耳鳴の治療としてはTRT(tinnitus retraining therapy)といってカウンセリングで耳鳴に対する過度の不安感や誤解を解きつつ、耳鳴をかき消さない程度のノイズを特製の耳かけ補聴器型の装置で聴いてもらう方法が注目されるようになってきました。しかし、この治療法で使われるサウンドジェネレイター(いわば雑音発生装置)も日本での発売は中止されていましたし、元々6万円以上して健康保険も使えませんでしたから、購入した人は少数と思います。
従来からあるマスカー療法と最近注目のTRTの一番の違いは、カウンセリングの有無と雑音の音量ですが、雑音を聞くことによって耳鳴を聞こえにくくするということは共通してます。いずれも有効とはいわれつつも、実はその割には普及していません。普及へのハードルとなっているのは専用の治療器具(雑音を派生させる装置)が高価で、しかも正規に輸入されておらず入手しづらいことです。
このiPhoneアプリは、音量の調節にコツがいるようで欠点もあるのですが、6万以上もする専用のサウンドジェネレイターの代用になる可能性があります。iPhoneあるいはiPod touchをお持ちの方なら、わずか700円でダウンロードして使えるというのは大きいと思います。

ただし、耳鳴の診断やカウンセリング、治療の実際に対するアドバイスとして、耳鼻科医師の助言は仰ぐべきと思います。耳鳴で悩む方はいきなりこのアプリを使うというよりは、まずは(耳鳴の治療に積極的な)耳鼻科を受診して相談してみることが必要と思います。ただし、いきなり「こういうアプリを使ってみたいのですが・・・」といっても直ぐに理解出来る耳鼻科医は残念ながら少数ですし、何しろ専用の治療器具と違いデータも少ないと思われます。幸い主治医が耳鳴の音響療法に積極的で、このアプリを知っていて、なおかつご本人がiPhoneもしくはiPod touchをお持ちなら、試す高価はある治療法かと思います。

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by jibikai | 2010-01-01 22:13 | 耳のはなし | Comments(4)
耳鳴について考える 〜治療について〜
今回も耳鳴の話の続きで、治療について書きます。

耳鳴の治療としては、急性期と慢性期とに分かれます。
急性期、すなわち耳鳴が起こって間もない時期には、それと同時に急性の内耳障害が起こっていることが多いと思われます。具体的な病名としては、突発性難聴、低音障害型感音難聴、メニエール病、音響外傷などということになりますが、これらの疾患では、原因となっている疾患の治療をまずは行うべきです。

一方、慢性の耳鳴や、いつからかはっきりしないもの、難聴も伴わない耳鳴の場合は、前回お話した様な仕組みで、元々は内耳で起こった耳鳴が、脳における悪循環で、持続したり増強したりしていていることが考えられますから、これを何とかしなければなりません。
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(脳において、負のスパイラルが起こって耳鳴りが増強しているイメージ)


慢性的な耳鳴では、脳の中で耳鳴を増強するような、「負のスパイラル」が発生していると考えられます。それは、耳鳴の信号が大脳皮質で無害な音と無視されずに、大脳辺縁系に伝達されて不安や恐怖感を起こし、それが自律神経のバランスを崩しイライラする。そうなるとさらに大脳皮質はまた耳鳴を注意して聞こうと集中してしまい、さらに悪くなる、というようなことが何重にも繰り返されるうちに、内耳からの入力がなくとも、耳鳴を感じるまでに至る、というメカニズムが考えられています。

脳で耳鳴が増強しているような状況では、この「負のスパイラル」を断ち切ることが重要です。そのためには、脳の中で一番理知的かつ合理的な判断のできる大脳皮質での、耳鳴に対する考え方を転換していくことです。「耳鳴が危険な病気のサインではないこと」、「多くの人が経験するごくありふれた症状であること」、「それが増強するには脳の働きが悪循環を起こしていること」などを理解することが、治療には必要です。これにより、大脳辺縁系でも耳鳴を不快なものと判断しなくなり、自律神経失調症状も抑えられてくるというのが狙いです。

ただし、いくら理性的に判断しろと言っても、やはり耳鳴が強いときにはイライラしますから、これを軽減するために、音響療法というのを併用することも多いです。要するに静かな環境を避けて、相対的に耳鳴を小さくするという考え方です。音源としては、軽症の場合は、わざとチューニングをずらしたFMラジオで雑音を流すとか、波の音のCDを流すとか、難聴のある人であれば、補聴器を付けて環境音が聞こえる状態を作ることなどです。耳鳴に対する苦痛度が高い場合は、サウンドジェネレイターという補聴器と同じ形をした、雑音を流すための専用の機械が必要となります。

今回ご紹介しました耳鳴に対する治療法、すなわち耳鳴の起こる仕組みを理解することにより、過度の警戒を起こさないように、考えを変えていくことと、雑音により耳鳴を相対的に小さくして慣れていくことが、実は最近注目されているTRT (tinnitus  retraining therapy)という治療法なのです。

耳鳴の治療というのは、色々な治療法が流行、廃れを繰り返してきました。それだけ、決め手がなかったということになるわけなのですが、TRTはかつての治療が耳鳴の消失を目的としていたのに対して、耳鳴が意識のレベルに上がってこないように、いわば慣れてしまって、苦痛を避けるところに主眼をおいている点で異なります。薬を処方すればそれで済むという治療ではありませんから、それなりの難しさはありますが、期待できる治療法ではあると思います。
by jibikai | 2008-07-07 18:06 | 耳のはなし | Comments(0)
耳鳴について考える 〜苦痛の連鎖〜
引き続き、耳鳴の話です。またしても理屈っぽい話になってしまいそうなのですが、読んでいただければ幸いです。

さて、前回は音刺激によって引き起こされる脳の活動は、大脳皮質のみならず、大脳辺縁系や視床下部ー自律神経系の反応もあり、それぞれがまた関連しあっているということをお話ししました。耳鳴もまた、最初は内耳で起こるものが多いのですが、それによる神経の興奮もまた、脳幹を経て、大脳皮質へと伝達されます。大脳皮質では、耳鳴を気にしなくても良いものとして認識して処理してしまえば、大脳辺縁系や自律神経系はあまり影響を受けません。しかし、大脳皮質が耳鳴を特に警戒すべき音として判断した場合は、大脳辺縁系の海馬という部分には不快な経験としてメモリーされますし、扁桃体では不快感や恐怖として認識。扁桃体の反応はさらに、視床下部を通じて自律神経に「退避行動」を取るような命令を出させます。この自律神経によって命令される「退避行動」とは、心拍数の増加とか、血圧の上昇などなど、危険に対して身構えているようなものですから、リラックスとは正反対の、まさに緊張を強いられた状態となります。自律神経が内臓に対して退避行動を取るように命令することは、危険を回避しながら生きていくためには必要不可欠なことなのですが、それも過度になると、それ自体がストレスとなり弊害も多いわけです。さらに自律神経の緊張状態というのは、今度は大脳皮質を刺激しますから、ここからまた、大脳辺縁系へと不快なストレスを伴った信号が巡り巡っていくという悪循環を来してしまうわけです。(下のの図を参照して下さい。)
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こうなってしまうと、内耳の病変が落ち着いて、耳鳴を起こす病的な信号を、もう脳の方へは送ってこなくなってしまっていても、脳が一人歩きして、耳鳴を感じ続けるというようなことが起こります。無難聴性耳鳴や突発性難聴が治った後も耳鳴のみ続くケース、機能性難聴や心因性難聴に伴った耳鳴などには、このような状態が多いと思われます。

急性期の耳鳴、すなわち突発性難聴やメニエール病、中耳炎などによるもので、比較的発症後 間もないものは、元々の疾患をしっかりと治療することが重要で、それによって内耳での耳鳴発生を抑えます。しかし、内耳の状態が落ち着いた後にも、耳鳴が慢性的に続く場合、しかも苦痛や自律神経症状も伴う場合は、脳の中で起こっている悪循環を断ち切るための治療が必要になってくると思います。

それを具体的にどうするかは、また次回にお話ししたいと思います。

というわけで、耳鳴の話はまだまだ続きます。
by jibikai | 2008-07-03 18:22 | 耳のはなし | Comments(14)
耳鳴について考える 〜音と脳の関係〜
ちょっと、お絵かきに手間取りまして、1週間ぶりの更新です。

さて、脳の中で音の情報がどのように処理されているのかということを、もう少し掘り下げてみたいと思います。
(なお、本文、図の作成にあたりましては、川村光毅先生の論文「扁桃体の構成と機能」を参考とさせていただきました。) 
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さて、前回 聴覚伝導路としては、内耳ー脳幹ー大脳皮質というルートを説明しました。内耳で音の振動のエネルギーを神経の興奮という電気的エネルギーに変換、脳幹では音の周波数の解析が行われ、大脳皮質で言葉や音楽として理解されるという一連の流れです。これが聴覚伝導路としては、本流と考えて間違いないのですが、実は他にもいくつかの支流があって、特に大脳辺縁系という部分の働きが、最近注目されています。

大脳辺縁系というのは、大脳の中では内側の方にあって、海馬(かいば)や扁桃体(へんとうたい)と呼ばれる部位などからなります。大脳皮質が、新しい大脳としてヒトに進化してから飛躍的に発達した部分ですが、大脳辺縁系はいわゆる旧い脳の部分で、哺乳類では種が違っても ほぼ同じ程度の機能を持つといわれます。

図の矢印は音を聞くことによって生じた神経の活動電位が、どのように脳内を伝わるかを示します。扁桃体へとつながるルートとしては、脳幹から直接 入ってくるルートと、大脳皮質から海馬の順に経由して情報処理を受けて入ってくるルートの二通りあります。

扁桃体では音などの外界の刺激に対して、それが自己にとって益になるのか害になるのかの価値判断が行われ、益ならば快情動(気持ちいいということ)が起き、害と判断されれば不快情動(気持ち悪く思うことや恐怖感など)が起こります。

扁桃体からは大脳皮質へと戻るルートと視床下部を介して、自律神経に命令を送るルートがあります。扁桃体からの大脳皮質への信号は脳を覚醒状態に保ち、刺激に対する感受性を高めて、皮質を活性化するといわれています。一方、自律神経は呼吸、循環、摂食、水分代謝など、内臓の活動の調節を行っていますが、音の刺激がこういった生命維持の根源とも言える働きに影響を与えることになるのです。例えば、不快な音を聞いて鳥肌が立つったりするのは、音の刺激に自律神経が反応したと考えられます。

以上のように、音を聞いたときの脳の反応としては、大脳皮質で理知的に判断するだけでなく、大脳辺縁系で情動的に快か不快か直感的に判断したり、自律神経症状が起こったりと、脳内のいろいろ部位で、反応が起こります。さらには、それらの反応は、互いに関連しあっているというのが、今日の音と脳との関係の話のまとめです。

実際の音の刺激のみならず、耳鳴においても脳の関与は大きいことは、特に最近いわれていることでして、その辺については、また、次回にお話ししたいと思います。

参考文献
川村光毅:扁桃体の構成と機能. 臨床精神医学 36 (2007) 817-828 (アークメディア)
by jibikai | 2008-07-01 21:11 | 耳のはなし | Comments(2)
耳鳴について考える 〜聴覚伝導路〜
耳鳴の起こる仕組みを理解するため、耳から脳へ、音の信号がどのように伝わっていくかを考えてみましょう。
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1: まず、音というのは空気の振動なのですが、その振動が外耳道を通り、鼓膜にぶつかります。

2: 鼓膜が振動して、3つある耳小骨に順繰り振動が伝わっていきます。
(ここまでが伝音系といい、主に中耳の働きです。)

3: 耳小骨の振動を受けて、内耳では音の振動のエネルギーを、電気的エネルギーである神経の活動電位に変換します。

4: 内耳で起こった活動電位は、蝸牛神経を通って、脳幹という脳の基本的な仕事をする場所へと入ります。脳幹では、音の周波数を解析したりしていると考えられています。

5: さらに音による神経の活動電位は、大脳皮質へと伝えられていきます。大脳では、より高次な音の分析、例えば言葉の理解や、安全な音なのか危険な音なのかなどの判断が行われます。

以上が、聴覚伝導路といわれる、音の信号が耳から脳に入り、理解や判断されるまでの仕組みです。

ところで、耳鳴に他覚的耳鳴と自覚的耳鳴に分けられることは以前お話ししましたが、大部分は自分にしか聞こえない自覚的耳鳴で、自覚的耳鳴はこれら聴覚伝導路のどこかで発生している活動電位と考えられます。通常は音があるところで起こるべき活動電位が、音のないところでも起こってしまい、耳鳴として大脳で認識されるわけです。

聴覚伝導路のどこで耳鳴の元となる活動電位が発生しているかは、おそらく原因となる疾患によっても違うのでしょうが、内耳や蝸牛神経が多いと思われます。細かくいえば、内耳の内有毛細胞や外有毛細胞の損傷や、蝸牛神経の圧迫などが考えられています。

また、普段は周りの生活雑音などにかき消されて自覚していない耳鳴が、難聴によって周囲の音が聞こえなくなる分、顕著化してくるようなものもあると考えられています。

耳鳴はあくまでも症状であり、背景には様々な疾患があります。それらの疾患を正しく診断して、耳鳴が聴覚伝導路のどこで起こっているのかを想定していくことが、重要です。

今回の話は、よほど聞こえや耳鳴の問題に興味のある方以外には、ちょっと難解な部分もあったかも知れません。ただし、耳鳴に悩む患者さんにとって、耳鳴がどうして起こるのかを理解するのは、実は耳鳴を克服する上で必要なことなことです。それは、耳鳴に対して不必要な不安を感じないようにするためなのですが、そういった目的もあり、聴覚伝導路と耳鳴の起こる仕組みについて記事にしてみました。
by jibikai | 2008-06-23 17:49 | 耳のはなし | Comments(0)
耳鳴について考える 〜耳鳴のいろいろ〜
耳鳴と一言でいっても、タイプ、発生部位、原因となった疾患などにより、色々に分類されます。耳鳴の分類や原因疾患についてお話ししたいと思います。ちょっと退屈な話かも知れませんが、興味のある方はおつきあい下さい。

【自覚的耳鳴と他覚的耳鳴】

自分にしか聞こえない耳鳴が自覚的耳鳴で、他人にも聞くことの出来る耳鳴が他覚的耳鳴です。他人にも聞こえるといっても、ごく小さい音が出るだけですので、オトスコープというゴム管を、医者と患者が片側ずつお互いの耳に入れることにより、何とか聞こえるレベルです。原因は耳の周りの、筋肉の痙攣や血管の雑音など、聴覚に直接関係ない部位の異常なので、通常 難聴は伴いません。

それに対して、自分にしか聞こえない耳鳴は自覚的耳鳴といい、耳鳴のほとんどを占めます。難聴を伴うもの、伴わないもの(無難聴性耳鳴といいます)、いずれもあります。

【発生部位による分類】

中耳性、内耳性(もしくは蝸牛性)、中枢性等に分けられます。

内耳性が最も多いのですが、耳鳴の発生するメカニズムは複雑で、未だに解明されていない事も多々あります。また、中耳炎などの伝音難聴は、難聴は鼓膜の響き方が悪くなったり、耳小骨をうまく音の振動が伝わらなったりして起こるのですが、それに伴う耳鳴は内耳で発生していることもあり、なかなか事情は複雑です。

また、最初は内耳の障害で発生した耳鳴が、内耳自体の病態は安定しているにもかかわらず、増強したり持続したりすることもあります。それには音を不快なものかそうでないものかを認識している、大脳の働きも関係していることがわかってきました。

【原因となる疾患】

中耳疾患
急性・滲出性・慢性などの各種中耳炎、耳硬化症、耳小骨離断、耳管機能不全など。

内耳(蝸牛)疾患
突発性難聴、メニエール病、低音障害型感音難聴、老人性難聴、急性音響外傷、騒音性難聴など。

脳(中枢神経)の疾患
聴神経腫瘍、神経の変性疾患や血管疾患、心因性難聴、鬱病などの精神病など。

聴器以外の疾患
高血圧、動脈硬化、頭蓋内や頸部の血管の走行異常、耳の周囲の筋肉の痙攣など。

以上、耳鳴の原因となる疾患を挙げてみました。みなさんには、聞き慣れない病気も含まれていたかと思います。とりあえずここでは個々の疾患について解説することはしませんが、まあ要するに結構いろんな病気で耳鳴の症状が生じ得るわけです。


【今回のまとめ】
耳鳴の原因疾患や発生部位は今回紹介しましたように様々なものがありますし、発生のメカニズムもまだ詳細不明の点もあります。
耳鳴の治療については、また別のエントリーで触れたいと思いますが、どんな耳鳴に対しても、まずは原因疾患の治療が重要です。従って、できる限り耳鳴の原因となっている背景を調べていくことが大切と思います。
by jibikai | 2008-06-10 00:26 | 耳のはなし | Comments(4)
あらためて、耳鳴について考えてみる 〜 序 〜
このブログの目的の一つとして、耳鼻科の疾患などについて、一般の方にも分かりやすく解説することにより、耳鼻科というものをより身近に感じて理解していただきたいということがありました。ここのところ写真中心の手抜き更新が続いていましたが、ここで初心に立ち返って、耳鼻科の話題も、またぼちぼちと再開していきたいと思います。

そこで今回は、いままでどちらかというと敬遠してきた、耳鳴の話です。
なぜ今まで敬遠してきたかといいますと、一言で言えば耳鳴の診療自体が難しいからです。耳鳴というのは「外界からの正常の音刺激のないに耳の中あるいは頭蓋の中に音が感じられること」と定義されていますが、あくまでも症候名であり、原因となっている疾患は様々です。従って原因疾患の特定という難しさが一つあります。次に、耳鳴は他人にも聞こえる、他覚的耳鳴(たかくてきじめい)というのもあるのですが、こちらは少数派であって、そのほとんどが患者さん本人にしか聞こえない、自覚的耳鳴(じかくてきじめい)です。ということは、耳鳴の大きさや、音色などは本人にしかわからないということになります。これがまた、診療を難しくしている要因の一つということになります。さらには、例えば同じ大きさの耳鳴がしていても気にする度合いというのは、個人個人でも違いますし、同じ人でも、その時の気持ちの状態(例えば、イライラしているか、何かに集中しているかなど)の違いによっても変わってきます。それから、もう一つ耳鳴の診療を難しくしている要因として、正常、異常のボーダーラインのあいまいさ、ということもあります。といいますのは、聴力の正常な人でも、静かなところでは耳鳴のある人も実は多いので、すべての耳鳴が異常とか病気とは言えない側面もあるのです。
治療の面では、内服や局所療法、注射など色々な治療が行われてはいますが、全ての耳鳴に効く治療法というのはなく、いろいろの治療を試行錯誤せざるを得ないこともあります。治療効果についても、耳鳴は例えば血圧のように数値化することは難しいですから、どの治療がどれだけ効いたかということもなかなか比較しづらいのです。

今回は、耳鳴のお話しの最初として、なぜ、耳鳴の診療が難しいのかということのついて書きました。結局、ネガティブな話になってしまいましたが、まあ、問題点を洗い出すのも意味のあることですから、あえて耳鳴の診療がなぜ難しいのかということから書いてみました。

あまり長文になっても、読みづらいと思いますので、耳鳴というテーマについては何回かに分けて、書いていこうと思います。
by jibikai | 2008-06-06 12:12 | 耳のはなし | Comments(10)