鼓膜チューブ留置術(いわゆるチュービング)について

このブログでは耳鼻科の情報をオリジナルのイラストを使って説明していますが、今回は鼓膜チューブ留置術、いわゆるチュービングについてです。チュービングは急性中耳炎を繰り返す場合(反復性中耳炎)や、滲出性中耳炎に対して有効な治療法です。もともと鼓室(こしつ)は耳管(じかん)を通じて換気されているのですが、急性中耳炎や滲出性中耳炎になりやすい人は、この耳管の働きが悪くなっています。そこで鼓膜の一部を切開して、そこから中耳を換気するためのチューブを入れることによって、鼓室を換気できるようにしようというのがこの治療の目的です。
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滲出性中耳炎のある程度進行した状態です。耳管が詰まってしまったため、鼓室内の気圧が低くなり鼓膜が内側に凹んで、さらに鼓室内の粘膜の炎症の結果滲み出てきた液体が排出されずに貯まったままになっています。この状態では鼓膜が凹むことによって響きにくくなり、さらに滲出液の抵抗により耳小骨の動きも悪くなりますから、聞こえが悪くなりますし、耳のつまる感じも持続します。


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そこで、まず鼓膜切開をします。
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切開した穴から鼓室に貯まった滲出液を吸引していきます。これで聞こえは良くなり、つまる感じも改善します。
しかし、鼓膜には再生能力がありますから、数日で鼓膜の穴は閉じてしまいます。それまでの間に耳管機能が良くなればいいのですが、そうでなければ中耳炎が徐々に再発してしまいます。
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そこで、鼓膜に開けた穴が閉じないようにするために、シリコンやテフロン、あるいはチタンなどで出来たチューブを入れます。チューブの形はまっすぐのものもありますが、それだと入れやすい替わりに抜けやすいという欠点がありますので、ほとんどのチューブは手前側と先端に“ツバ”が付いて抜けにくくなっています。

チューブを入れておく期間はケースバイケースなのですが、例えば子供の滲出性中耳炎の場合で、1年半前後が適当だと思っています。長期間入れておけば、それだけ再発の頻度は少なくなりますが、あまり長期になると鼓膜の穴が閉じなくなることがあるからです。

それから、チューブが入っている場合気を付けなくてはいけないのが、極力耳に水を入れないようにすることで、シャンプーや水泳の時には注意が必要です。それは外耳道からチューブを通って雑菌を含んだ水が入り、本来無菌状態であるべき鼓室内に感染を起こすことがあるからです。感染を起こすと、耳だれが出るのですが、実際にはその頻度はさほど多くないようで、それほど神経質にならなくとも良いことが多いです。しかし、さすがに飛び込みや潜水は止めるようにお話ししています。

チュービングは耳鼻科の医者の側からすると、通院の回数は減らせるし、聴力の良い状態を保てるしと、お勧めできるケースは非常に多いのですが、実際には患者さんの同意が得られずに出来ないこともあります。それは鼓膜に穴を開けることへの抵抗感が大きいのですが、そんな不安を取り除くために、分かり易くイラストを使って記事にしてみました。

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Commented by だん at 2009-06-25 20:54 x
先生、こんばんわ(^-^*)/
記事読みましたよ~イラスト付きで、説明も本当にわかりやすいです!
確かに、鼓膜切開してチューブを入れるって聞いた時は、びっくりしたし怖かったですね…。実際、麻酔しても効いてる感じがしなくて、かなり激痛ですよ…。で…記事読んでて思ったことがあるんですけど…
滲出性中耳炎がなかなか治らない人って鼓膜切開してもすぐに鼓膜が閉じてまた滲出液が溜まってくるんやから、それやったら、アタシは今、チューブを入れてるんですけど、抜けても鼓膜が閉じないでそのままなら良いのになあって思ってるんですけど…ずっとよく聞こえるじゃないですか?
Commented by osha-p at 2009-06-25 22:21
こんばんは
私の場合はパパレラ型でほぼこれだったような?
入れる時、ディスプレイ見ながらやってたみたいですが、若い先生がちょいベテラン先生に指導されながら・・・でした。外耳道を器具がとおる時が痛かったです。練習台だったかと。(^^;;違和感は1日だけであとは全然意識しませんでした。最初は鼓室換気がめまいにいいとかでしたが、ステロイド投与するための順序をふんだという事だったかなと思っています。1年ぐらいチューブしていました。
Commented by jibikai at 2009-06-25 23:27
だんさん、おっしゃるとおり切開した孔が閉じないように
工夫することによって、チューブを入れないで済むような
方法はあります。レーザーや高周波で鼓膜切開する方法なの
ですが、それだと創が閉じにくくなるとのこと。今のところ
あまり普及していないのですが、チュービングよりも良い点も
あるので、これから普及してくるかも知れません。
Commented by jibikai at 2009-06-25 23:35
osha-pさん、チュービングは、外耳道に極力触らないように
してやるのがポイントですが、何しろ顕微鏡や内視鏡で見ながら
の操作なので、最初は結構遠近感が掴みにくく、思うように
鉗子を動かしにくいものです。なるほど、ステロイドの鼓室内
注入の前処置だったわけですね。
Commented at 2010-06-27 11:32 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2010-06-27 11:37 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by jibikai at 2010-06-27 14:36
鍵コメさん、申し訳ございませんが、診察もせずにあれこれというのは
むしろ治療の支障となることも多く、コメントは差し控えさせていただきます。
Commented by さくら at 2012-02-01 14:59 x
メニエール病治療でチューブを入れて10年になります。最近頻繁の耳漏で、黄色ブドウ球菌も検査ででました。このままでいいのかな。内リンパ嚢開放術して4ヶ月で再発し、両側性になり、鼓室内投与のため切開したらめまいがおきなくなり、鼓膜が閉じると回転性のめまいを繰り返すものですから。チューブ入れちゃう?と言った感じで進められ、健康な鼓膜にチューブを入れました。おかげで毎日の回転性めまいから開放されています。もちろんがんこなみみなりや難聴はしかたありませんが。チューブは一生入れておけるものですか?
Commented by jibikai at 2012-02-03 22:45
さくらさん、チューブは数ヶ月から数年で、自然に抜けることも多いですし、感染を繰り返す場合は抜去ということになります。
逆に言えば、感染を起こしたりせずに綺麗な状態であれば、長期間入れておくこともあり得ます。
Commented by さくら at 2012-02-23 12:46 x
お返事ありがとうございました。その日、その時間に救急蘇生の真っ最中でしたので、お返事遅れました。

私はチューブからラジカットを入れる治療を大学病院でしましたが、私のときはマウスでの投与しかしていなかったため、研究費から治療してもらいましたが、最近は、このような治療法は行われているのでしょうか?私は良好です。
Commented by jibikai at 2012-02-26 01:17
さくらさん、チューブからラジカットですか?一部では行われているのかも知れませんが、一般的な治療でないのは確かです。メニエール病の治療はまだまだ試行錯誤的なところが多々ありますから、いろいろな治療法が提唱されて、良さそうなのはあちこちの施設で検証されますが、廃れるのもあります。
Commented by さくら at 2012-02-28 21:58 x
先生こんばんは。メニエール病はA型、神経質、几帳面、など色々言われているようですが、私はo型、のんびりタイプのマイペースでかなりの天然ボケといわれて35年、こんなに進行してしまった事が不思議です。発作以外は健康なのですが仕事したくてもできずでした。親がいなければ保障もないので生活できずに飢え死にしてたでしょうね。耳鼻科医にはこの病気になったら、家でのんびりするものです、といわれてましたから。結婚もしてない女の子が家でひそかに暮らすのも辛いですね。婚期を逃してしまった行き遅れです。
山形のお写真すごいですね!雪!!こちらは一月に少しちらちらと舞いましたが、一度でいいから雪だるまとか作ってみたいです!桃の花が今日もきれいにさいていました。花粉症でもある私は一月の29日頃でしたでしょうか、少し花粉が飛んでいるようでした。ザイザルの鼻のかゆみ止めを服用し始めました。
今年はコートをクリーニングに出さずにすみそうです!!

雪かき車はじめてみました!本格的だー!!
Commented by jibikai at 2012-02-29 09:49
さくらさん、一般的には、メニエール病には有酸素運動が発作の予防に有効というようなことが
言われています。もちろん発作時は無理でしょうけれども。

山形は台風は来ないし、地震も少なくて良いところなのですが、雪だけはちょっと多すぎます。
今年は特にそうでした。
でも、冬が厳しいほど春のありがたみはよく分かりますね。
Commented by さくら at 2012-02-29 23:02 x
有酸素運動ですね! 初めて指導していただいた予防法です!
音響障害、平行機能障害、治らないと言われてましたが治りました。左耳がきこえなくなったせいかもしれませんがそれでも嬉しいです。耳栓生活脱出です。 
歯科衛生士のお仕事賛成派ですか?辞めた方がいいとか悪いとか耳鼻科医の先生によって意見がまちまちなのです。

こちら山口は台風被害にあいまくりです。バルコニー落ちました。屋根瓦飛びまくりました。
隣の広島県宮島、平清盛ブームでとてもにぎわっています!散歩コースで今年は二回も行きましたが人ごみで目が回りそうです!!

ふぐも美味しいけど、やはり関アジですね!!
Commented by jibikai at 2012-03-01 22:49
さくらさん、仕事は、それがストレスの原因になっているのであれば、
要検討ですが、そうでなければ続けても良いと思います。ただし、一概に
仕事上のストレスと言っても、仕事の体力的はストレス、精神的ストレス、
職場での人間関係等いろいろあるでしょうから、その辺の見極めは難しい
ですよね。一般的には勤務時間を減らすことなどは推奨されています。

山口県、去年だったか学会があって行きたかったのですが、日程の調整が
つかず断念しました。
Commented by さくら at 2012-03-02 20:21 x
勤務時間の調整は良いですね!
緊張感がある仕事で、思ってた以上に体力がいる事に働き出して思っていましたが、とてもやりがいを感じていましたのでストレスを認めたくありませんでした。ほんと、見極めの難しいところですね。

山口県の学会ですか?遠い所までお勉強に来られるのですね!!私を治療してくださった、して下さっているたくさんの耳鼻科医の先生とかも良く、学会行くのでいませんって言われてます。医療はどんどん進化してますね。
私は再生医療に興味があります。でも一度壊れた有毛細胞はもう生えては来ないのでしょうね。
今日、節目検診で耳聞こえてないよ、と言われました。耳鼻科でしか聴力検査した事がなかったので検診用のカプセルのような面白い外の検査技師さんのえ-?の高音の声がカプセルの中から良く聞こえると言う面白い機械を始めて見ました。
左が90デシベルでした。右が30デシベルでした。右耳の聴力の回復に浮きだってますよ!!ケーキ買って帰りましたね、思わず・・!!
Commented by 太一 at 2012-04-26 20:32 x
ご相談です。2歳半の子供がいます。この一年で7回急性中耳炎になりました。風邪を引く度に必ず耳にきます。毎回高熱が出て耳が痛いと言います。そこでチュービングを検討していますが、通院している病院は毎回医師が変わり、息子の通院歴を把握できていないからか、まだしなくてもいいんじゃない?と言われます。
母親としては痛みがあるのは可哀想だと思うのと、私は看護師なので充分チュービングが必要な時期に来ていると考えます。「お母さんが希望するならやりましょう」と言われました。まだ見送ったほうが良いのでしょうか?
Commented by jibikai at 2012-04-28 16:06
太一さん、ようこそ。
反復性中耳炎ということで記事の滲出性中耳炎とは若干異なるのですが、
やはりチュービングの適応にはなります。

チュービングのメリットとしては膿が溜まることがなくなりますので、
痛くなる頻度は格段に減ってくることと、急性中耳炎に続発する滲出性中耳炎を
防ぐ可能性のあることと思います。

反復性中耳炎になるお子さんは保育所などで集団保育を受けていることが
多く、その場合は他の子が持ち込む色々な病原体に晒されることが最も
大きな原因です。熱を頻回にだすのも同じ理由からのことが多いです。
チュービングによって熱が出る頻度は少し減るかも知れませんが、ゼロには
ならないと思います。

デメリットとしては本文中にもあります通り、水泳の制限と永久穿孔の
リスクがあることです。
(永久穿孔といっても、大きくなってから手術的に塞ぐ方法はありますし、
最近では外来での比較的簡単な治療で塞ぐ方法も報告されています。)
(続く)
Commented by jibikai at 2012-04-28 16:06
太一さん、続きです。
急性中耳炎ガイドラインなどにも、チュービングに関する一定の基準というのは
実はなくて、現場の医師とご家族の判断でする、しないというのは決める
ことになります。

また外来での鼓膜麻酔だけでできそうなのか、全身麻酔じゃないとダメそうなのか
(この辺はお子様がじっとしていられるかどうかによります。)、

全身麻酔が必要なら2泊3日程度の入院が必要となりますから、通院中のところが
入院可能なのか、他の病院を紹介することになるのかなど、

他にも色々な要素が絡んでくることと思います。
Commented by 匿名 at 2013-04-05 13:46 x
こんにちは。いきなりコメントしてしまい申し訳ありません。
私は22歳なのですが、先日中耳炎になり、チューブ留置術をして頂きました。
耳の聞こえもよくなり、痛みもなくなったのですが、聞こえてくる音が低く聞こえます。
私は音大で音楽を勉強しているため、音程が低く聞こえると練習が困難になってしまいます。
チューブは一、二ヶ月で抜けるとお聞きしたのですが、その期間はずっとこのような症状が続くのでしょうか?
次に通う日まで少し日があくので、不安になってしまいました。参考に教えて頂けたら幸いです。よろしくお願いいたします。
Commented by jibikai at 2013-04-06 17:45
匿名さん、ようこそ。
チューブが入っている場合は鼓室に水が貯まらない分は聴力が改善しますが、鼓膜に孔が開いた状態なので、その分少し音の伝わり方が正常の鼓膜とは異なります。
また、成人の中耳炎では内耳の炎症を伴うことも多く、その分が改善していない可能性もあるかも知れません。

音程が低く聞こえるとのことですが、しばらく続くこともありますし、脳が順応すれば徐々に改善してくる可能性もあろうかと思います。
Commented by 匿名 at 2013-04-07 12:06 x
コメントありがとうございます。とても参考になりました。
もし鼓膜に開いた穴が原因なら、チューブが外れて穴が塞がったら治る可能性は高いのでしょうか??
Commented by 秋山 at 2013-05-16 22:04 x
こんにちは。色々なサイトを探して辿り着きました。お忙しいところ恐れ入りますが、教えて頂けると有難いです。


6歳の男児がおり、現在離島住まいのため県外のこども病院でアデノイド切除術と鼓膜チュービングを3月にしていただきました。現在は地元の病院にて、予後を診ていただいています。しかしながら、方針の違いに戸惑っています。(1)退院後の3度の診察で一度も耳垢取りをして頂けない。理由は取りすぎると良くないとのことですが、入院先ではチューブが外れないようにきちんととってもらって下さいとのことでした(2)プールのとき、耳栓は必要ない。今まで耳栓しないで影響があった患者さんはいなかったとのこと。しかし、これも退院時にはシリコン性の耳栓でしっかり帽子をかぶってすると聞きました。子供のことなので慎重を期したい思いと、離島で他先生の選択肢もないため気まずくなりたくない思いととても悩んでいます。どちらの病院の方針に従うのが適正なのででょうか?
Commented by jibikai at 2013-05-19 00:09
秋山さん、ようこそ。
耳垢は溜まってれば取った方が良いのですが、無ければ当然取る
必要もありません。また、チューブにまとわりついている場合、
無理に取ろうとするとチューブが抜けることもあります。
チューブが入った耳での水泳ですが、飛び込みや潜水をしなければ
大丈夫のことがほとんどですが、慣例的に耳栓の装着を勧めるのも
一般的。どちら正しいです。
当院では念のため耳栓してね、とは言いますが、泳いでいるうちにいつの間にか耳栓が外れていてもそう慌てるもでもない、
ただし耳だれが出るようなら早目に受診をと説明しています。
Commented by 秋山 at 2013-05-20 11:31 x
先生、お忙しいところ有難うございました。お聞きして安心いたしました。そう神経質にならず、耳だれにはよく注意して、楽しく過ごさせてあげたいと思います。
Commented by ばく at 2014-08-19 16:36 x
先生、はじめまして。46歳、男性です。

ご相談が ございます。
メニエールを発症してから、約一年が経ちました。
最初の発作の めまいは、一か月で完全に治まりました。
しかし五か月後、二回目の発作が起こり、キツイめまいは一か月で治まったのですが、
その後は、そこそこのめまいが残ってしまった状態が五か月続いています。
散歩くらいは出来てますが、運動や仕事は出来ない状態です。

そして先日お医者さんから、鼓膜チューブ留置術は どうかと言われたのですが、
正直手術には抵抗があり、現時点では お断りいたしました。
鼓膜チューブ留置術で良くなる可能性は高いのでしょうか?

お忙しいでしょうが、もし良ければ お答えいただければ幸いです。
by jibikai | 2009-06-24 22:40 | 耳のはなし | Comments(26)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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