声帯ポリープと喉頭癌

今朝の、「めざましテレビ」で、女優の中村玉緒が声帯ポリープの手術を終え、仕事に復帰したというニュースをやっていました。私がテレビで聞いた声は声帯ポリープの手術後としては、非常に良好(要するにかすれていないということ)で、おそらく声帯の手術の上手な耳鼻科医が執刀したのだろうと想像しました。また、玉緒さんは「癌じゃないのかと非常に心配しました。」と話していましたが、今日は、「声帯ポリープとは何か」、「癌とは違うのか」ということについて書こうと思います。

基本的に声帯ポリープというのは癌ではなく、また、放っておいても癌化もしませんし、自然に治ることもあります。組織学的には声帯ポリープは、炎症であって腫瘍ではなく、この辺は「胃ポリープ」や「大腸ポリープ」などとは少し概念が違うようです。一方、声帯にできる癌を喉頭癌(こうとうがん)といいますが、組織学的にはほとんどが扁平上皮癌といわれる物です。これは、もちろん適切に治療しなければ、間違いなく死に至る病です。

では、声帯ポリープと喉頭癌をどう見分けるのかという話をしたいと思います。

まず、最初に出てくる症状ですが、声帯ポリープでも喉頭癌でも嗄声(させい:いわゆるかすれ声)です。従って自分や周りの人間は、声がおかしいので声帯に何かあるんじゃないかとまでは、想像することは可能でしょうが、ポリープか癌かまではわからないでしょう。ただ、ある程度の経験を積んだ耳鼻科医であれば、同じ嗄声でもポリープよるものと、癌によるものとの区別は、初診の際、患者さんの第一声を聞いただけである程度の区別はつくものです。また、声帯ポリープはよほどのことがないかぎり、呼吸困難は起こしませんが、喉頭癌はもちろん、放っておけば限りなく大きくなりますので、やがては呼吸困難も起こしてしまいます。ここまでくれば、本人も周囲もかなりまずいんじゃないかと気づくことと思いますが、呼吸困難を起こすほどの喉頭癌はかなり進行していますので、手遅れになってしまっているか、たとえ命は助かるとしても、喉頭を手術により摘出しなければならず、声は失うことになります。したがって、まずは嗄声の現れた段階で耳鼻科を受診してくれることが大事です。

また、かかりやすい人ですが、声帯ポリープはとにかくよくしゃべる人、とくにノドだけに力を入れて話そうとする人に多くみられます。学校や幼稚園の先生、歌手、政治家などはなりやすく、職業病ともいえます。年齢や性別はあまり関係なく、子供でもなることがあります。一方、喉頭癌は中高年者の特に男性に圧倒的に多く、ほとんどが喫煙者です。私の経験上、これまで勤務医時代も含めて、おそらく100名近くの喉頭癌の患者さんの治療に関わってきましたが、その内、女性はたった1名だけでした。

次に検査ですが、耳鼻科では嗄声の患者さんには「喉頭ファイバー検査」というものを行います。簡単に言えば胃カメラのミニチュア版といったところでしょうか。直径3〜4 mmのくねくねと曲がる管でノドの奥の声帯を見るわけです。これでほとんど診断がつきますが、まれにポリープか癌か迷うものがあります。その場合はまず、炎症を抑える治療や、タバコを吸う人には禁煙をするよう指導していき、それでもよくならなければ、組織検査を行います。組織検査とは病変部の組織を一部(時には全部)採取して、顕微鏡でみる訳ですが、ここまでやれば、ほとんど間違いなく診断がつきます。

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最後に治療ですが、声帯ポリープでは、まず声帯にかかる負担を減らすために腹式呼吸による発声法を練習してもらいます。その他、炎症を抑える薬を飲んでもらったり、ネブライザー療法といって炎症を抑える薬を霧状にして吸入してもらったりします。これでよくならない場合、手術を考えます。手術は全身麻酔で行われ、口の中にノドを広げる管を入れ、顕微鏡で見ながらポリープをとります。ポリープは、いくら大きくてもマッチ棒の先程度の大きさですので、体に対する負担はたいしたことありませんが、手術後は、沈黙療法といって4〜7日程度、全く話をしないようにする必要がありますので、それも含めて1週間程度の入院をしていただくのが一般的です。
一方喉頭癌では、初期で見つかればレーザー手術か、放射線の照射で、ある程度進行していたり、再発したものではやむを得ず喉頭を全摘しなければならない場合が多いです。初期で見つかった場合と、進行してから見つかった場合とでは全然治療法が異なりますし、声を失うかどうかという問題もありますので、耳鼻科医も患者さんも早期発見、早期治療を目指しましょう。

長い文章、最後まで読んでくれてありがとう。
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by jibikai | 2005-09-30 11:13 | のどのはなし | Comments(0)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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