
急性低音障害型感音難聴の疫学調査はこれまでにも多くの施設で行われており、目新しいテーマではないのですが、これまでの報告は大きな施設からのものがほとんどです。ところが当疾患は診療所を受診するケースも多く、当疾患の全体像を把握するには、診療所における傾向も見なければなりません。そこで当医院にて治療した急性低音障害型感音難聴症例について疫学的に検討し、先日日本耳鼻咽喉科学会山形県地方部会例会で発表しました。ちょっとマニアックな内容ですが、スライドと解説をアップしますのでおつきあい下さい。
(急性低音障害型感音難聴って何?っていう方はこちらをご覧下さい。)
今回の研究対象は2004年から昨年末までの6年間に当院を受診した急性低音障害型感音難聴の疑われる患者さんのうち、下記の診断基準を満たす方としました。

高音域3周波数の合計が60dB以下と定めているのは、水平型や山型の感音難聴を除外するためです。ただし、この診断基準によりますと、元々高音域の難聴のある方に低音障害型感音難聴を併発した例は除外されてしまうため、賛否両論あって診断基準がまだ(案)のままとなっています。

疑い例も含めた症例数は176例で、そのうちの100例が確実例でした。

確実例100例の性別、年齢別分布です。男女差は男性28例、女性72例であり他の報告者同様女性に多い傾向にありました。年齢層では男性が40歳代、女性が30歳代にピークがありました。

症状は耳閉感が最も多く72%で、以下難聴、耳鳴、聴覚過敏、自声強聴と続きます。

そのうちの主訴は耳閉感が58%、難聴と耳鳴がそれぞれ18%、、聴覚過敏と自声強聴がそれぞれ3%でした。
難聴よりも耳閉感を訴えるケースの多いのが当疾患の特徴と言えると思います。

発症から受診までの期間です。
発症当日に受診するケースが最も多く、ほとんどのケースが1週間以内に受診していることがわかります。

発症した月ですが、年ごとに多少のばらつきはあるものの春から秋にかけて多く、冬には少ない傾向にありました。
発症した月について報告している論文としては、他にもう一つ見つけることが出来ましたが、春から夏にかけて多く冬には少ないということを言っておりましてほぼ同様の傾向でした。

季節が発症に関係しているとすれば、気象条件と関連はないのかということを検討してみました。発症した日が特定しやすい、発症後7日内に受診した80例について、発症のあった日と無かった日との間で、様々な気象条件について有意差の検定を行いました。当日の平均気温、最高気温、最低気温は発症のあった日の方が無かった日に比べて平均で1度以上高い傾向にありました。前日の気温との差は平均、最高、最低いずれも低い傾向がありました。平年気温との差は平均、最高、最低いずれも若干高めなのですが、発症の無かった日の方がむしろ高い傾向がありました。
気圧に関しては海面の平均気圧で見ましたが、当日、前日との差、平年との差、全てのパラメータにおいてほとんど差がありませんでした。
有意差についてはt検定を行いましたが、いずれも有意差はありませんでした。

典型例100例中、少なくとも一度は再診して経過観察が可能であった86例 90耳の予後について検討しました。
各周波数が20 dB以内となったのものを治癒、
低音3周波数の平均聴力レベルの改善が平均10 dB以上であったものを改善、
低音3周波数の平均聴力レベルの改善が10dB 未満であったものを不変としました。
治癒が69耳、改善12耳、不変9耳で悪化した例は見られませんでした。

再発の定義としては治癒と判定した後に、低音部3周波数の合計が65 dB以上となったもの。
改善例、不変例については、症状、聴力が一旦固定した後に再び低下した例。
自覚症のみの再発とは、基準は満たさないものの、自覚症が再発したものとしました。
再発なしが69耳、自覚症のみが6耳、再発して診断基準を満たしたものが15耳でした。

さてここからは、様々な因子毎に早期予後と再発率を見てみました。
まずは男女差についてですが、早期予後、再発率とも有意差はありませんでした。

年齢ですが、高齢である方が予後不良との報告もありますが、今回の検討では有意差が見られず、再発率については高齢になればなるほど多くなる傾向はあるものの、こちらも有意差はありませんでした。

治療開始までの日数が長くなると予後不良例が多くなる傾向はあるものの有意差なし。再発率についても有意差はありませんでした。

めまい感の有無ですが、ある方が予後不良の傾向はあるものの有意差なし。
再発率についてはχ2検定にて危険率5%で有意差を認めました。

聴力との関係については、初診時の低音部3周波数の合計のついてみました。
130dB以上になりますと95dB以内、125dB以内の例と比べると有意に予後不良となりますが、再発率との相関は見られませんでした。

治療は、イソソルビドを使用した例とプレドニンを使用した例がありました。
早期予後についてはイソソルビド使用群のの方が良好な傾向がありますが、有意差はありませんでした。
再発は使用群にのみみられましたが、使用していない群が7耳と少ないため有意差はありませんでした。

プレドニン投与の有無による差ですが、使用群で予後不良の傾向がありますが、これは初診時聴力のより低下している例に対してプレドニンを使用する傾向があり、バイアスがかかったものと思われます。
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