耳鼻科とステロイド

ステロイドっていうお薬は、ご存じでしょうか。耳鼻科ではステロイドを、いろいろな病気に対して使っています。といいますと、一部の方は顔をしかめるかもしれません。比較的、一般の方にも知られている薬なのですが、あまりよくない印象をお持ちの方も多いようです。50年ほど前から 臨床応用されている薬で、作用も強力な代わりに副作用もいろいろあり、「諸刃の剣」といわれていますが、その名が悪い意味で広く知れわたった背景としては、副作用が特に強調されすぎたということがあります。

もともと、ステロイドは副腎皮質というところで作られるホルモンであり、だれでも日々、自分で作っている物質なのです。それをわざわざ、薬として体の外から入れるのは、どのような作用を狙ってのことかと言えば、一番は強力な消炎作用と抗アレルギー作用です。 耳鼻科では、扁桃炎や喉頭炎、アレルギー性鼻炎、突発性難聴、顔面麻痺、亜急性甲状腺炎、外耳や鼻の入り口の湿疹などに使います。使い方は様々で、扁桃炎や喉頭炎のひどい時(咽が痛くて飲み込めないとか、気道が狭くなって呼吸困難になりそうな時)などは、点滴で。突発性難聴や顔面神経麻痺では、点滴や内服で。亜急性甲状腺炎では、内服で。アレルギー性鼻炎では、主として点鼻薬として、また重症のときは内服で。湿疹では、軟膏で、ステロイドを使用します。

一方、副作用としては、胃潰瘍、糖尿病、骨粗鬆症、そううつ状態、病原体に対する免疫力の低下などがあります。また、長期にわたってステロイドを連用した場合には、本来、体内でステロイドを作る仕事を担っている副腎皮質という組織が、体外からのステロイドの補給により、ステロイドが十分に足りていると感知し、仕事をさぼってしまい、ステロイドを作れなくなってしまう、「副腎皮質機能低下症」という状態を引き起こします。この場合、ステロイド剤を急にやめてしまうと、体内のステロイドが不足し、いわゆるリバウンド現象を引き起こしますので、長期にわたってステロイドを使用した場合は、徐々に減量して、離脱していくのが一般的なやり方です。
以上の様な全身的な副作用の他、問題となるのが外用剤による皮膚の副作用です。アトピー性皮膚炎などにステロイドの外用剤を使用した場合、どうしても治療期間が長くなります。そのため、本来皮膚炎を抑えようとステロイドを使用しているにもかかわらず、逆に、皮膚萎縮、乾皮症、ステロイド挫創、ステロイド潮紅といった、皮膚疾患を引き起こしてしまうことがあります。これを、一時期マスコミが過大に取り上げました。これに目をつけたのが、いわゆるアトピービジネスといわれる民間療法で、ひともうけしようとする人たちです。ステロイドの悪い面のみを一方的に宣伝することにより、患者さんの恐怖心を煽り、科学的に効果の確かめられていない治療法(健康食品、化粧水の類)を患者さんにすすめ、利益を得るものです。このアトピービジネスは結局は効果のないものがほとんどであったため、淘汰されてきていますが、ステロイドに対する過剰な恐怖心のみ、一部の方々には根強く残っているようです。

一言でステロイドといいましても、使用する用量は対象となる疾患や状態により様々で、それによって副作用の可能性もずいぶんと違いがあります。例えば顔面麻痺などにはプレドニンというステロイドを1日あたり200 mgも使うこともあります。これは、生体内で作られるステロイドの20~30倍の量であり、全身的な副作用が出現する可能性があります。したがって、このような大量のステロイドを使用する場合は、入院の上、厳重な観察が必要となります。一方、アレルギー性鼻炎に対して点鼻する場合や喘息で吸入する場合などは、ベクロメタゾンというステロイドを400 μg程度使用したりしますが、 その用量は自分の体内で作られるステロイドのわずか10分の1以下で、注射と違い血中に吸収される量としてはさらに微量となりますので、全身的な副作用の心配はまずありません。このようなことを説明しても、「ステロイドはどうしてもどうしても使いたくないのです。」という患者さんはたまにいます。その場合、患者さんの意志(思いこみ?)を尊重せざる終えませんが、かなり不合理なことだと思います。

一方、内科や皮膚科などで、「注射一発で花粉症を治します。」と宣伝し、患者さんを集めている一部の医療機関があります。一度注射をすれば、1シーズン効果が持続するとして、忙しくて通院できない患者さんには人気があるようです。流行っていることに嫉妬するわけではないのですが、耳鼻科医として、この「注射一発」の治療は勧めません。なぜならこの注射薬はステロイドで、しかも一度の筋肉注射で3ヶ月もの長期にわたって効果を示すということは、逆に言えば、何か副作用が出た時でも身体からなかなか出て行ってくれない薬ともいえるからです。耳鼻科では、花粉症を含めて、アレルギー性鼻炎の治療では、重症例以外では全身的にはステロイドを使用しません。(先ほども述べましたが、点鼻は別です。)それは、他に優秀な抗アレルギー薬や、減感作療法、手術などの治療法があり、あえて、全身的な副作用の危険を冒す必要がないからです。以前、yahooの掲示板に「注射一発で花粉症を治します。」という内科医からの書き込みがあり、それに対して、耳鼻科医が反論したことがあります。この内科医の主張は、「耳鼻科医だって突発性難聴や顔面麻痺に対して、もっと大量のステロイドを使うではないか。」というものでした。しかし、突発性難聴や顔面麻痺という病気は、後遺症を残す可能性のある病気であり、それを防ぐためにはステロイドが最も有効です。そのため、副作用の起こる可能性は承知の上で、(ただし副作用に対する万全の備えをしつつ、)ステロイドを大量に使用するわけで、アレルギー性鼻炎のような後遺症を残さない病気に使うのとはわけがちがうのです。

以上、ステロイド剤に対する考えを述べてみましたが、一概に副作用の出る薬ではないこと、病気によっては副作用があることをわかりつつも、使わざる終えない場合もあることなどをご理解頂けたら、幸いです。

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Commented by くしゃみ at 2010-02-14 00:37 x
こんばんは。私は小児の頃からアレルギー性鼻炎とお付き合いしています。小さな頃アレルギーテストで何本も注射をした記憶があります。偶然、記事を読まさせていただきました。今まで鼻炎のメカニズムを知らなかったので大変勉強になりました(^_^)これからも鼻炎とお付き合いして行かなければなりませんが身近に先生のようなお医者さんがいればいいな~と思います。急なコメントすみません。お邪魔しましたm(__)m
Commented by jibikai at 2010-02-14 07:33
くしゃみさん、ようこそ!
少しでもお役に立てて何よりです(^^)
励みになるコメント、ありがとうございます。
鼻炎関連の記事は最近滞りがちでしたが、また少しずつ
書いていこうかと思いますので、今後ともよろしく。
by jibikai | 2005-10-15 12:34 | 花粉症・アレルギー | Comments(2)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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