新型インフルエンザ〜町医者なりの心配〜

前回、新型インフルエンザについての記事をアップしましたが、参考になりましたでしょうか。

ここ数日、厚生労働省のホームページ上の資料、特に新型インフルエンザ対策関連を中心に、目を通しています。前回の記事は、そのうちでは簡易にまとめられた資料を、さらに要約したもので、あえて自分自身のコメントは入れませんでした。

今回は詳細な資料である「新型インフルエンザ行動計画」(以下、”行動計画”と記述します)を元に、インフルエンザの診療に関わる開業医としての視点も交えて、あらためて新型インフルエンザの記事を書きます。

行動計画を読んで一番心配なのはやはり患者数の多さです。最大で、2,500万人が医療機関を受診。その場合、入院患者数が53万人から200万人。死亡者は17万人〜64万人にのぼるだろうと推測されています。入院患者数、死亡者数に幅があるのは、ウイルスの病原性が中等度の場合と高度の場合とで別に試算しているためです。中等度の場合でも、ピーク時の一日あたりの入院者数は、全国で約10万人と試算されています。

ところで、全国の病院や診療所の病床数っていったい何床あるかご存じでしょうか。同じ厚労省のホームページをたどって調べましたところ、平成16年のデータで総病床数約163万床、その内、精神病棟や療養型病床などを除いた一般病棟は約91万床とのことです。新型インフルエンザの患者は感染の拡大初期であれば、感染症病棟に入院すると計画されていますが、感染がいよいよ拡大した場合は、入院を必要とする患者は一般病棟に入院することになります。果たして91万床から、ピーク時に予測される入院の必要な患者さん10万人分の病床をいかに捻出するのか、今から考えておかなくてはなりません。もちろん91万床が常に稼働しているわけではありませんので、多少の余裕はあるのでしょう。しかし、例えば手術後の患者さんとか、癌で化学療法中で免疫力が低下している患者さんとか、肺炎の患者さんなどに新型インフルエンザが感染したら、それこそ命取りになる可能性が高いので、院内感染は避けなくてはなりません。ほかの患者さんへの院内感染に配慮しつつ、新型インフルエンザの患者さんのための病床を多く確保するのは、このままでは、かなり困難なことと思われます。

では、足りない病床はどうするか。先の行動計画には
”フェーズ6B(国内発生期)になった場合には、患者数が増大することが想定されることから、感染症指定医療機関以外の医療機関や大型施設等に患者を入院・入所させることができるように、その活用計画を検討しておく必要がある。”
とあっさりと書いてありますが、「大型施設等」とはいったい何を想定しているのでしょうか。
学校の体育館などが、よく災害時の避難施設として使われますが、新型インフルエンザ流行時の患者収容先としては適当ではないでしょう。寒すぎるし、区切りもありませんので。
私の意見としては、大流行時には人の動きは制限されますから、例えばホテルなどは利用者が大幅に減少するはずで、こういった利用者の減ったホテルなどを政府や地方自治体が一時的に借り上げ、病床として利用することなどはどうかということ。おそらく、新型インフルエンザで重症となる場合、全身状態の悪化や細菌の混合感染による肺炎などが多いでしょうから、点滴による栄養補給や、抗生剤の点滴も必要になると思われます。厚労省はとりあえず、タミフルの備蓄は方針として示しましたが、治療には、何も薬だけが必要なわけではなく、最低限暖かなベッドと栄養のある食事が提供できる場所も必要ですので、ホテルの借り上げを検討して、あらかじめ自治体側がホテル側に交渉ぐらいしておいてくれると、助かると思うのですが。自分が新型インフルエンザで死ぬとしても、寒いところで野垂れ死ぬのだけは勘弁です。

私の診療所は、病床がありませんので差しあたっては、外来診療しかできないでしょう。具体的には、鼻、咽、全身状態を診て、まずは検査キットでA型インフルエンザかどうか診断。新型インフルエンザの可能性が高ければタミフルを処方。そんな感じになるんでしょうが、問題は、新型インフルエンザと思われる患者さんと、その他の患者さんをいかに分けるかです。出入り口、受付、診察室を別にして、患者さんの動線が重ならないようにしなくてはなりません。現在の当院の構造では不可能なので、プレハブでも増設するか、院長室を明け渡して診察室として利用するしかないかも知れません。また、来院できないような重症者の場合は往診し、必要に応じて入院施設を紹介するようなことも必要になろうかと思います。もちろん、診療にあたっては、職員や自分が感染しないようにも、十分注意しなければなりません。

皆さんにとっては予防が一番重要ですから、今のうちから手洗い、うがいを習慣づけること、家族が新型インフルエンザで寝込んだら、看病を実際どうするかを考えておくことなどが、今できる備えだと思います。

新型インフルエンザが出現しないか、出現したとしてもうまく封じ込められればそれにこしたことはありませんが、そればかりは何ともいえません。「なるようになるさ。」という考えもなくはありませんが、為政者も医療関係者も、一般の方々も、それぞれの備えをしておいた方が良いかも知れません。


↓参考になったら、ぽちっと押してください。
☆人気ブログランキングへ☆
by jibikai | 2005-11-18 18:59 | Comments(0)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


by jibikkuma