嚥下性肺炎

以下、yahoo! Japanのニュースに載っていた、北國新聞の記事です。

----------------------------------------------------------------------------------------
2005年12月9日更新
高血圧の薬服用者、肺炎少ない 金沢医科大・森本教授ら解明 「せき」誘う作用、異物吸入防ぐ

 高血圧の薬を飲んでいる人は肺炎になりにくいという調査結果を、金沢医科大の森本茂 人教授(高齢医学)らの研究グループが国際誌「老年医学」に報告した。肺炎は七十五歳 以上の死因のトップで、つばや食べ物が肺に入ってしまうのが原因とされる。高血圧の薬 には空せきがでる副作用があり、森本教授は、服用者がせきをすることで肺に異物が入る のを防いでいると考えている。

 森本教授は約三百人の高齢者を対象に調査し、降圧薬として広く使われている「ACE 阻害剤」を飲んでいる人と飲んでいない人で肺炎のかかる割合を分析した。その結果、A CE阻害剤を服用している人の肺炎発症の危険度は、飲まない人に比べて三分の一と非常 に低かった。寝たきりや認知症など肺炎を起こしやすい患者の場合でも、服用者は肺炎に なりにくいことが分かった。

 ACE阻害薬は高血圧に関係する酵素の働きを止める作用があり、血圧を上げる物質を 減らし、血圧を下げる物質を増やす。このうち血圧を下げる物質は、のどでは、飲み込ん だり、せき込んだりする反応もつかさどっている。ACE阻害薬の副作用として、空せき が挙げられていた。

 森本教授は、遺伝的に高血圧になりやすい人の研究を進める中で、せきと遺伝子の関係 にたどり着き、これまでにも、肺炎にかかる危険性が遺伝子の違いで三倍も高くなる体質 があることを明らかにしている。今回の調査によって高血圧薬と肺炎を初めて関連付けた 。

 高齢者はのどの感覚が鈍って、異物が肺に入ってきても、せき込まなくなりやすい。こ のため、口の中の雑菌や胃の内容物が誤って肺に入ることで起きる誤嚥性(ごえんせい) 肺炎で死に至るケースが多いという。森本教授は「むせることが肺炎予防になる」と話し ている。
---------------------------------------------------------------------------------------
(以上、転載)


これを読んで、正直びっくりしました。

耳鼻科にも慢性的な空咳{専門用語では乾性咳嗽(かんせいがいそう)といいます}に悩まされている患者さんは、多く受診します。この慢性乾性咳嗽の診断は一筋縄ではいかず、多くの原因疾患が候補としてあげられますが、そのなかで、このACE阻害剤という降圧剤による慢性乾性咳嗽は結構な割合でみられます。その場合、降圧剤を違う系統のものに変更してもらうことにより、比較的速やかに良くなります。しかし、この森本教授の言うようにACE阻害剤による副作用である慢性咳嗽が、嚥下性肺炎(引用文中では”誤嚥性肺炎”と書いてありますが、正しくは嚥下性肺炎)を予防しているとすれば、咳が出るからと言って他の薬に切り替えることは、かえって良くない場合もあると言うことになってしまいます。

そもそも嚥下性肺炎というのは、喉や気管の感覚が鈍感になってしまい、唾液や食べ物、逆流した胃の内容物などが気管に流れ落ちてしまっても、ムセないために排出されず、それが原因で気管支に炎症を起こし、細菌感染も伴って肺炎を来す病気です。若く元気な人では、よっぽど泥酔して吐いたりした時以外はありえません。とくにかかりやすいのは、高齢で寝たきりの方、いわゆる認知症の方、脳梗塞の後遺症のため、喉や気管の感覚が麻痺してしまっているような方です。

他方、嚥下性肺炎の心配のない人、すなわち普通に自分で歩ける程度元気な方にとっては、頑固な空咳というのはやっかいな症状であることには変わらず、できる限り原因を調べて、きちんと治療する必要があることに変わりありません。もし、ACE阻害剤による副作用である場合は、やはり、可能な限り別の系統の降圧剤に変更することが望ましいと考えるのですが、いかがなものでしょうか。

↓参考になりましたたら、ぽちっと押してください。1日1回ご協力よろしく。
☆人気ブログランキング(病院・診療所部門)へ☆
Commented by jibikai at 2006-01-06 17:59
>知っておきたい医薬品の事。ACE阻害剤についてTBありがとうございます。すでに副効用として誤嚥の防止ということは言われているのですね。勉強になりました。
by jibikai | 2005-12-12 18:53 | のどのはなし | Comments(1)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


by jibikkuma