カゼの話
2005年 12月 16日
ある診察室での医者と患者の会話。括弧内は心のつぶやき。
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医者「どうなさいましたか。」
患者「カゼです。」
医者(カゼかどうかは診ないとわかんないよ。)
「いつ頃から、どんな風に具合が悪いのか具体的に教えてください。」
患者「最初、鼻にきて、2,3日したら咽にきました。」
医者(”きた”って何だよ。”きた”って。電車男じゃないんだからさ)
「鼻は出るんですか。つまるんですか。」
患者 (だからカゼなんだって)
「鼻は少しつまりますが今はたいしたこと無いです。」
医者 「いつ頃つまっていましたか。」
患者 (なんか尋問みたい)
「う〜ん、1週間ぐらい前かな。」
医者 (”きた”じゃわかんないから、細かく聞くけど)
「咽は痛いんですか。咳が出るんですか。痰は絡みますか。」
患者「痛くて、痰も少し絡みます。」
医師「ご飯は食べられますか。」
患者(しゃべるのもつらいくらいなんだから、もう早く薬出してよ。)
「痛くて飲み込みにくいです。」
医者「咽がそんな風に痛くなったのは、いつ頃からですか」
患者「2〜3日前からです」
医者「ほかにはなにか気になる症状はありますか。」
患者「ないです。」
医者「では、診てみましょう。」
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診察後、
医者「鼻は中の粘膜全体が赤く腫れていて、急性の鼻炎の状態です。咽は全体が充血しているんですが、特に扁桃が腫れて膿もついて化膿した状態で、急性扁桃炎ですね。これは細菌の感染ですから、抗生物質を出しておきます。痛みも強いようなので痛み止めのくすりと、あと鼻汁と痰を切れやすくする薬を出しておきますね。おそらく飲み薬だけで治ると思いますが、扁桃炎をこじらせると、外来で点滴したり、場合によっては、入院しなくっちゃいけなくなるときもあります。薬を飲んでも、熱が下がらないとか咽の痛みがひどくなるようでしたら、早めに来てくださいね。」
患者(なんだか長々と説明しているけど、もしかして、カゼじゃなくてなんか変な病気なのかな。思い切って聞いてみよう。)
「あのう。」
医者「はい?」
患者「カゼじゃないんですか?」
医者(ちゃんと説明したのに聞いてなかったのかな?)
「正確に言えば、化膿性扁桃炎ということになりますけど、まあ、カゼって理解してもらってもいいですよ。」
患者(なんだ、やっぱりカゼなんだ。俺がカゼだって言ってんだからごちゃごちわないで、最初からカゼだっていって言えばいいのに。)
「わかりました。お世話様でした。」
医師「ハイ、お大事になさってください。」
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しばらくして、
会計担当の受付嬢「あのう、さっき新患で受診した○○さんが、”風邪薬”も欲しいそうなんですけど、、、、、。」
医師 ガクッッ
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カゼと一言で言っても、罹った人の言葉でいうと「鼻に来るカゼ」とか「咽に来るカゼ」、「熱だけ出るカゼ」さらには「おなかに来るカゼ」なんていうのまであります。
さらに細かく症状についていうと、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、咽の痛み、咳、痰、かすれ声、発熱、関節の痛み、全身倦怠感、腹痛、下痢、吐き気など様々です。また個々の症状についてさらに細かく見てみると、例えば同じ咽の痛みという症状一つとっても、少しヒリヒリするだけなのか、痛くて全く飲み込めないとか、神経痛のような間欠的にひどくなるビリビリした痛みなのか、千差万別なのです。さらには、それら多彩な症状が、いろいろな組み合わせで起こって来るわけです。
原因はウイルスと細菌による感染ですが、その種類もいろいろ。しかも、ウイルスと細菌の混合感染なんてこともたびたびあります。感染の起こる部位も、咽頭、扁桃、鼻の中、喉頭、気管、気管支、副鼻腔、中耳など様々です。
また、一言でカゼといっても程度によって何もしなくても治るものから、入院が必要なものまで様々なのです。治療法も抗生剤が必要な場合もあれば、痰を切る薬や、咳止め、痛み止めなどの対症療法としての薬だけでよいこともあります。
ですから、本来”風邪薬”というのは、薬局で症状をお話しして、薬剤師さんから出してもらうのはよいのでしょうが、医者に「風邪薬下さい。」というのはちょっと勘弁して欲しいのです。
ただ、そういう私もつい「カゼ」という病名を連発してしまう時があります。「カゼですね。」というと、通りがよいといいますか、長々と説明しなくて済むし、患者さんも「何だカゼなんだ。」と安心しますから、楽したいときは、つい鼻風邪とか咽風邪とかって言う言葉を使ってしまいます。
まあ、これもケースバイケースで、患者さんのパーソナリティとか、病態なんかにもよるんですが、詳細に説明した方がよいこともあれば、「カゼ」とひとくくりにしてしまったりするときもあるわけです。
なんか、とりとめのない文章になってしまいました。とにかく、カゼって一言で言っても、医者はいろいろ考えているんだということがわかってくれたら幸いです。
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うん,うん、とうなづきながら読ませていただきました。
私も、いつも困ってます。
というか、「風邪ですか?」の問いかけに、「風邪の中の一つです。」とか、「大きくひっくるめると、風邪ですね。」とか、つい、素直に「はい、かぜです。」と言ってしまえません。
かといって、「原因は何?」と聞かれても返答に困ります。
だって、本当の原因は、疲れだったり、冷えだったりするわけで。
そこに、細菌さんや、ウイルスさんに、つけこまれてしまった結果ですよね。そして、細菌やウイルスにしても、特定することなんて実際しませんし。何が原因?の質問は大嫌いです。
だから、そういう意味では、風邪ですか。と聞かれて風邪です。と答え、納得してもらえるなら、そっちのほうがましと思っています。
長々おしゃべりしました。すみません。
逆に、宿主側の全身的な要因、先生のおっしゃるような「疲れ」、「冷え」などには、なかなか思いが巡っていなかったかも知れません。コメントを読ませて頂き、局所偏重主義に陥らないようにしなければと思った次第です。
すみません、わかったようなことをコメントしてしまいました。
このサイト、とっても面白くて、思わずファンになってしまいました。
雪かきの写真とかも楽しいし、文章が上手なので、思わず
読んでしまいました。また、過去の記事を読みに帰ってきます。
楽しみが増えました。
ちーひめ