耳鳴の原因と治療
2014年 08月 12日
耳鳴の分類
耳鳴はタイプ、発生部位、原因となった疾患などにより、色々に分類されます。
自覚的耳鳴と他覚的耳鳴
自分にしか聞こえない耳鳴が自覚的耳鳴で、他人にも聞くことの出来る耳鳴が他覚的耳鳴です。他覚的耳鳴は稀で、ほとんどが、自覚的耳鳴です。そのため、耳鳴のつらさがなかなか他人に伝わりにくいことが多いといえます。
発生部位による分類
中耳性、内耳性(もしくは蝸牛性)、中枢性等に分けられますが、一番多いのは内耳性と考えられます。
原因となる疾患
中耳疾患
急性・滲出性・慢性などの各種中耳炎、耳硬化症、耳小骨離断、耳管機能不全など。
内耳(蝸牛)疾患
突発性難聴、メニエール病、低音障害型感音難聴、老人性難聴、急性音響外傷、騒音性難聴など。
脳(中枢神経)の疾患
聴神経腫瘍、神経の変性疾患や血管疾患、心因性難聴、鬱病などの精神病など。
脳や聴器以外の疾患
高血圧、動脈硬化、頭蓋内や頸部の血管の走行異常、耳の周囲の筋肉の痙攣など。
耳鳴のおこる仕組み
耳鳴の起こる仕組みを理解するため、耳から脳へ、音の信号がどのように伝わっていくかを考えてみましょう。

1: まず、音というのは空気の振動なのですが、その振動が外耳道を通り、鼓膜にぶつかります。
2: 鼓膜が振動して、3つある耳小骨に順繰り振動が伝わっていきます。
(ここまでが伝音系といい、主に中耳の働きです。)
3: 耳小骨の振動を受けて、内耳では音の振動のエネルギーを、電気的エネルギーである神経の活動電位に変換します。
4: 内耳で起こった活動電位は、蝸牛神経を通って、脳幹という脳の基本的な仕事をする場所へと入ります。脳幹では、音の周波数を解析したりしていると考えられています。
5: さらに音による神経の活動電位は、大脳皮質へと伝えられていきます。大脳では、より高次な音の分析、例えば言葉の理解や、安全な音なのか危険な音なのかなどの判断が行われます。
以上が、聴覚伝導路といわれる、音の信号が耳から脳に入り、理解や判断されるまでの仕組みです。
耳鳴の大部分を占める自覚的耳鳴は、通常は音があるところで起こるべき活動電位が、音のないところでも起こってしまい、耳鳴として大脳で認識されて生じます。
聴覚伝導路のどこで耳鳴の元となる活動電位の発生源は、内耳や蝸牛神経が多いと思われます。
また、普段は周りの生活雑音などにかき消されて自覚していない耳鳴が、難聴によって周囲の音が聞こえなくなる分、顕著化してくるようなものもあると考えられています。
耳鳴は、聴覚伝導路いずれかで発生するのですが、これを認識するのは大脳の役割です。

特に大脳辺縁系という部分の働きが最近注目されています。大脳辺縁系というのは、いわゆる旧い脳といわれる部分で、緻密な思考というよりは、心地良いか不快であるかの判断といった風な、原始的な感覚を司っている部分で、自律神経と連携して働いています。
自律神経は内臓の働きをコントロールしていますから、音が不快だと感じた場合に、自律神経の命令で心臓がドキドキしたり、胃腸の具合が悪くなったりすることも起こりえるのです。
同じことは、耳鳴でも起こると考えられます。最初に内耳で発生した耳鳴を大脳辺縁系が不快な音として認識した場合、自律神経が刺激されて、内臓の調子が悪くなり吐き気がしたり、脈が変動したりすることもあるのです。そして、この経験が再び大脳にフィードバックされ、耳鳴があるために非常に不快な経験をしたのだと思い込みます。そうすると、大脳は耳鳴りは危険なシグナルと認識するようになり、耳鳴りをより一層注意して聞くように習慣づけられます。そうすると、さらに耳鳴に敏感に反応してしまうようになるという悪循環に陥るのです。
一度悪循環に陥ってしまうと、いつもは聞き流せるような耳鳴も、気になって過剰に反応してしまうようになる、というのが耳鳴が頑固になってしまうメカニズムです。
耳鳴の治療
耳鳴の治療としては、急性期と慢性期とに分かれます。急性期、すなわち耳鳴が起こって間もない時期には、それと同時に急性の内耳障害が起こっていることが多いと思われます。具体的な病名としては、突発性難聴、低音障害型感音難聴、メニエール病、音響外傷などということになりますが、これらの疾患では、原因となっている疾患の治療をまずは行います。
一方、慢性の耳鳴や、いつからかはっきりしないもの、難聴も伴わない耳鳴の場合は、元々は内耳で起こった耳鳴が、脳における悪循環で、持続・増強していることが考えられますから、この悪循環を断ち切ることが大切です。そのためには、「耳鳴の起こっている原因を理知的に理解し、過度の心配を抱かないようにすること」、「耳鳴りに意識を傾けないように習慣化する」ことが有効です。いわば大脳で大きくしてしまった耳鳴りを、大脳の働きで小さくしてしまおうという治療法で、これが当院で行っているTRTです。
TRT とは?
TRTとはtinnitus retraining therapyの略です。直訳すれば、”耳鳴再訓練療法”ということになりましょか。再訓練というのは、耳鳴を過度に警戒して、耳鳴に集中してしまう癖を捨て去って、耳鳴を聞き流せるようにするように習慣づける、という意味です。
TRTの実際
顕微鏡や内視鏡を使った耳の診察、聴力検査、必要に応じて耳管機能検査やティンパノメトリィ、CTなどを行い、耳鳴の原因を診断します。その上で、耳鳴の起こっているメカニズムを説明します。耳鳴の正体を明らかにすることにより、過度の不安を抱かないようにして頂くのが狙いです。
さらには、音響療法を併用します。具体的には静かな環境を避けてもらうため、1日のうち数時間程度、音を流しておく治療です。音源としては、軽症の場合は、わざとチューニングをずらしたFMラジオの雑音、波の音のCD、難聴のある人であれば、補聴器を付けて環境音が聞こえる状態を作ることなどです。耳鳴に対する苦痛度が高い場合は、サウンドジェネレイターという補聴器と同じ形をした、雑音を流すための専用の機械が必要となります。
ただしサウンドジェネレイターを購入するまでもない、という方にはiPhoneやiPad、Androidで使えるアプリもありますので、これらのユーザの方にはお勧めです。
いずれにしても、音量は耳鳴が完全に消える程大きくなく、半分ぐらいになる程度が適当です。他の音により、やや圧縮された耳鳴を聞くことにより、大脳が耳鳴のある状態に慣れることを促すのが音響療法です。TRTは、病状についての説明と理解、そして音響療法の二つの柱から成る治療なのです。
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