汎用デジタルカメラを利用した内視鏡システム─耳科診療への応用─

日本耳科学会でポスター賞を受賞した演題ですが、エキブロの仕様のためか、ポスターが読めなさそうなぐらい縮小されてしまいまして、内容が分からないかと思い、改めて編集し直してアップします。
以下、ポスターの内容です。

汎用デジタルカメラを利用した内視鏡システム
─耳科診療への応用─
榊原 昭
あさひ町榊原耳鼻咽喉科医院(山形市)

はじめに
耳科診療へのカメラ付きの内視鏡の導入は、外耳道や鼓膜の詳細な観察、画像の保存が可能になるなど、メリットが多い。しかし一方では、カメラや光源が高価であることと、機材の大きさ、ケーブルの取り回しの煩雑さなどが欠点となっている。
家庭用のビデオカメラやデジタルカメラを内視鏡に接続するアイディアは、以前にも存在した1)が、採用しているカメラはズームレンズとモニターが一体となっており、小型・軽量ではなかった。また、カメラの背面に固定されたモニターやファインダーを覗き込みながら内視鏡を操作する必要があったため、操作性と視認性において、やや難があった。
最近発売されたOLYMPUS AIR A01は、モニターや操作用のダイヤルなどを一切省いたレンズ交換式のデジタルカメラであり、撮影条件の設定や画像の確認などは、無線で接続されたiPadやiPad Pro, iPhoneなどで行うのが特徴である。これを内視鏡システムの中核とすることにより、より一層の低価格化、小型・軽量化が可能となり、しかも、モニターもより大きなものを、しかも任意の位置に設置出来るため、医療用カメラと遜色のない操作性、視認性が期待出来る。実際の外来診療において、鼓膜の観察と記録、処置に活用し、操作性や画質については、満足出来るものとの実感している。システムの概要、得られる画像は、以下に呈示する。なお、発表に際しては、時間の許す限り、デモも行いたいと考えている。

システムの概要
iPad Proとカメラは、無線で接続される。いずれの機材もバッテリー駆動で、電源ケーブルも必要としない。iPad Proはキャスター付きスタンドを用いて、自由に移動出来るようにしているが、多くの場合、患者の頭部を挟んだ向かい側が,最もモニターを見ながら内視鏡を操作しやすい位置である(図1)。
カメラと内視鏡はマウント変換アダプター、Cマウントアダプターを介して連結している。光源はLEDバッテリー光源を用い、ワイレスとしている(図2)。
価格は選択するiPadやiPad Proによって異なるが、光源と硬性鏡を除いて、合計237,004円〜となる。
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図1






















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図2
初期設定
iPad Proに、無料の専用アプリをダウンロードし起動すると、カメラとiPad Proとのペアリングを行う手順が示されるので、その通りに設定を行う。この操作は初回のみ必要である。

起動
カメラの電源を入れ、iPad Proのアプリも起動する。最短で30秒程度で撮影可能となるが、その時間を利用して、硬性鏡の曇り止めなどを行っている。

撮影条件の設定
通常のカメラ同様、画質、画素数、ホワイトバランス、シャッタースピード、ISO、アスペクト比などを設定できる。この操作はiPad Pro側で行う。露出:プログラムオート、露出補正:+0.3、ISO: 1250、ホワイトバランス:蛍光灯
としている。
内視鏡のイメージサークルが、ほぼモニター全体に表示されるようデジタールズーム×2、あるいは×3で調整している。これらの設定はiPad Proに記憶されるので、毎回やり直す必要はない。
記録は、静止画と動画、いずれも選択可能である。多くの場合、静止画としているが、処置の過程を記録する際には動画を録画している。なお、画像はiPad Proに保存するか、本体に挿入したmicro SD cardに保存するかを選択出来るが、micro SD cardに保存した方が確実である。

撮影
1)右耳を見る場合には、患者の左側にiPad Proを移動する。2)左手で耳介を後上方に牽引しながら、右手はカメラを持って内視鏡の先端を外耳道へ挿入する。
3)iPad Proにリアルタイムに耳内が表示されるので、観察と同時に必要に応じ、患者に説明する。
4)画像を残したい位置で、シャッターボタンを押す。
5)iPad Proを患者の右側(図1の位置)に移動して、左耳の観察と撮影を行う。

画像ファイリング
カルテ机にiMacを置いて、プリインストールしてある写真管理ソフト、iPhotoでファイリングを行っている。
撮影後、内視鏡と光源を外したOlympus Air A01を、iMacにUSBで接続し、画像の取り込みを行う。取り込み後、タイトルを患者IDに換え、病名などをタグ付けして管理している。
正常鼓膜
正常鼓膜では、ツチ骨、キヌタ骨、耳管鼓室口などが確認可能である(図3)。

運用状況
Olympus Air A01を外来診療に使用して、約18ヶ月経過したが、使用頻度は、一日平均5例程度である。
症例の内訳としては、耳垢栓塞、サーファーズイヤー、外耳道異物、水疱性鼓膜炎、急性中耳炎、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、鼓室硬化症、癒着性中耳炎、高位頸静脈球、コレステリン肉芽腫などである。
期間中、カメラの軽微な故障が、一度のみ発生した。保証期間内であったため、修理は無償であったが、宅配便でやりとりする期間も含めて、10日間ほどかかった。

特に有用と思われたケース
左手で内視鏡とカメラを把持して、右手で鉗子、吸引管、鼓膜切開刀などを操作することで、処置や鼓膜切開、チュービングも可能である。片手操作にはなるが、死角がないのは顕微鏡に対するアドバンテージとなる。また、ケーブルがないので、手術用のカメラよりも操作性が良い。
以下のケースでは、特に有用であった。
○ サーファーズイヤーや、外耳道の彎曲した例や小児の、耳垢除去。
○ 外耳道異物除去術。
○ 鼓膜切開、チュービング、鼓膜穿孔閉鎖術(特に外耳道の狭い例、
 湾曲した例で有効)
○ 弛緩部陥凹内の清掃、open mastoidの清掃。

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図3:正常な鼓膜 


まとめ
汎用のデジタルカメラ、Olympus Air A01を応用した内視鏡システムは、小型軽量、ケーブルも必要がなく、モニターも自由に移動出来るため、耳内の観察と記録のみならず、内視鏡下の処置も無理のない姿勢で行うことが可能であった。
また、顕微鏡では死角になるような、狭小あるいは彎曲の強い外耳道の深部、弛緩部陥凹やopen mastoid内の処置にも有用であった。
リアルタイムにはiPad Proで、記録された画像はiMacで確認しているが、静止画、動画とも高品位であった。

文献
1)角田晃一:内視鏡記録への家庭用光学機器の応用. JOHNS 26 (1) :15 -18. 2010



以上、ポスターを再構成いたしました。病的鼓膜の写真につきましては割愛しております。

なお、カメラシステムとカメラシステムの連結は、ユニバーサルジョイントとなっていますので、軟性鏡や、他科の内視鏡への応用も可能と思われます。

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Commented by 耳鼻科医 at 2016-10-19 22:04
いつも拝見させて頂いております。当院でも内視鏡システム導入したいと考えております。鼓膜写真の保存と電子カルテ、画像ファイリングシステムとの関係はどのようにしていらっしゃるのでしょうか。
Commented by jibikai at 2016-10-19 22:37
耳鼻科医さん、記事中にも書きましたが、カルテ机にiMacを置いて、それにプリインストールされているiPhotoという画像管理ソフトに全て読み込ませて整理しています。電子スコープからの動画や、赤外線CCDで観察された眼振の動画なども全て一緒に管理しています。
Commented by jibikai at 2016-10-19 22:56
耳鼻科医さん、追加です。
カルテですが、未だに紙カルテです。必要な画像は、印刷してカルテに貼っています。
Commented by 獣医師です at 2017-08-12 10:34
はじめまして、開業獣医師です。
この日記が大変参考になりました、ありがとうございます。
質問なんですが、医療用のCマウントレンズアダプターを工業用硬性鏡のアダプターで代用しても問題ないでしょうか?わかりましたら、お願いします。
Commented by jibikai at 2017-08-16 22:12
獣医師です。様、ようこそ。
私も、工業用のCマウントレンズアダプターを購入し、予備として使用しています。作りほとんど同じ物が、およそ3分の1で購入出来ました。ただし、医療用の物は防水とのことですが、工業用のものは防水の記載がないのがほとんど様に思います。
Commented by 獣医 at 2017-08-20 10:44
返信ありがとうございます。なるべく低予算で組み上げたいので、工業用でやってみたいと思います。
あともう一点、マウント変換アダプターには種類がたくさんありますが、KIPOの型番を教えてもらえないですか?
よろしくお願いします。
Commented by jibikai at 2017-08-21 08:37
> 獣医さん
型番はありません。
KIPON マウント変換アダプター シネCマウントレンズ-マイクロフォーサーズマウントアダプター C-m4/3
という商品名でAmazonで売られているものを使用しています。
Commented by 獣医 at 2017-08-21 09:16
早い返答ありがとうございます。すぐに購入します。
これで快適な硬性鏡診察ができそうです。
Commented by jibikai at 2017-08-22 08:25
> 獣医さん
システムが、役に立つと良いですね。
Commented by ある眼科医 at 2017-11-05 22:47
初めまして。涙道治療で内視鏡を使用する予定です。
安く導入できそうで興味を持っているのですが、バッテリー光源で光量の調整ができるのでしょうか?
内視鏡映像を見ながら治療を行う予定ですが、ノイズはいかがでしょうか?
Commented by jibikai at 2017-11-06 08:36
> ある眼科医さん
このバッテリー光源は光量の調節は出来ません。調節するのであれば,別途ライトガイドを硬性鏡につなぐタイプの光源を用意する必要があります。
鼻の小手術や内視鏡下鼻副鼻腔手術後の篩骨洞内の清掃などにもこのシステムを使っていますが、ライブビュー、記録動画ともノイズは大きくはありません。ただし接続する硬性鏡は,鼻の場合2.7mmでは暗いので、4.0mmの方が良いと思います。
Commented by ある眼科医 at 2017-11-06 16:56
ご返答ありがとうございます。
大変参考になりました。
Commented by ある眼科医 at 2018-02-26 23:13
以前のコメントで工業用のCマウントレンズアダプターのことを書かれていましたが、具体的な会社名、モデルを教えていただけませんでしょうか?
Commented by jibikai at 2018-02-27 08:16
> ある眼科医さん

株式会社 松電舍 Shodensha, Inc.
〒530-0028 大阪府大阪市北区万歳町4-12 浪速ビル東館7F
TEL : 06-6364-3000 FAX : 06-6364-3311
より発売されている、
カメラアダプタレンズ BA-A35 という製品です。

デモも貸してもらえます。
Commented by ある眼科医 at 2018-02-28 12:42
ご返答ありがとうございます。
早速連絡してみます。
by jibikai | 2016-10-18 14:06 | 耳のはなし | Comments(15)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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