鼻が咽に流れる症状を、後鼻漏(こうびろう)といいます。即、生命を脅かすものではないのですが、気にするとかなり気になる不快な症状であり、人によっては後鼻漏が気になって夜眠れなくなる、ということまであるようです。また、“エヘン虫”と以前いわれたような、“咳払い”を癖のように絶えずすることにより、周りから白い目で見られることもあります。最近はあまりそういうマナーの悪い人はいなくなりましたが、”カ〜ッ、ペッ!”と痰を吐くのも、この後鼻漏が原因であることが多いです。
後鼻漏に悩む方は実際多く、ごくありふれた症状なのですが、原因がなかなかわからず治療が難しいこともあります。それには理由があり、
- もともと後鼻漏は誰にでもあるもので、後鼻漏があるからすべて病的といえないこと。
- 様々な原因があること。
- 鼻や咽の構造が入り組んでいて複雑であること。
などによると思われます。
従来より、考えられてきた後鼻漏の原因は主に二つです.一つは鼻水の分泌過多。鼻水は鼻腔内で吸気を適度に加湿し、下気道を保護する役割があります。ところが蒸散して空気中に取り込まれる量を超えて鼻水が出る場合、余分な分は咽頭へと移動していきます。この余分な鼻水が後鼻漏の一つの原因で、具体的には急性鼻炎やアレルギー性鼻炎があります。そして、もう一つが副鼻腔炎による後鼻漏です。副鼻腔とは額や目の内側や、頬の中や頭蓋の真下にある空洞で、鼻腔とは連続性があります。風邪に続発したり、白血球の一つのタイプである好酸球が増えることにより、副鼻腔の粘膜に炎症が起こると、ここから分泌液が鼻腔へと溢れ出てきます。しかも、副鼻腔は後鼻孔に向かって開口していますので、鼻孔よりも咽頭へと流れ落ちる分が多く、しかも粘り気が強いため、咽頭にへばり付きかなりの不快感を引き起こします。
以前には、この二つが後鼻漏の主な原因と考えられてきました。しかし、実際には鼻炎も副鼻腔炎もなく後鼻漏だけが多いケースというのがかなり多いのです。この場合の後鼻漏はどこから来るのでしょうか?こういったケースで、上咽頭をファイバースコープで見ると、かなりの割合で炎症があり、粘液が付着していることが多いのです。上咽頭から流れ落ちる後鼻漏には、副鼻腔炎に対するマクロライドや粘液溶解剤、抗アレルギー剤のなどはあまり効果がありません。また、上咽頭の慢性炎症を抑える薬もあまりないのです。では、どうするのかというと、かつてBスポット療法、最近では上咽頭擦過療法といわれる治療法が有効です。この治療は数十年前から、後鼻漏に限らず、頭痛や自律神経失調症などにも有効と報告されてきました。しかし、推進派があまりに多くの疾患に有効と報告したため、逆に多くの医師に胡散臭いと敬遠されたこと、ファイバースコープのない時代には炎症の証明が難しかったこと、それなりに手間がかかる割には保険点数としては全く評価されなかったなどの理由で廃れてしまったようです。
しかし、ファイバースコープを駆使することにより上咽頭を直接見ながら、より効果的に治療が行えるようになったのが、以前と異なる点です。当院では、口腔咽頭科学会への参加をきっかけに、内視鏡下の上咽頭擦過療法に積極的に取り組んでおります。
上咽頭擦過療法をもってしても、後鼻漏という症状は頑固なことも多いのですが、それでも従来のアレルギー性鼻炎と副鼻腔炎に対する治療に加えて、もう一つ選択枝が出来たという意義は大きいと考えています。