「割りばし事故」の判決

昨日も話題にしました、「割りばし事故」。今日、東京地裁で判決が下されました。

以下、Yahoo! Japanより。
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「延命の可能性低い」医師に無罪…割りばし死亡事故

 1999年に東京都杉並区の保育園児杉野隼三ちゃん(当時4歳)が綿あめの割りばしをのどに突き刺して死亡した事件で、業務上過失致死罪に問われた元杏林大学付属病院医師・根本英樹被告(37)の判決が28日、東京地裁であった。

 川口政明裁判長は診断上のミスがあったことを認めたが、「治療したとしても延命の可能性が極めて低かった」と述べ、無罪(求刑・禁固1年)を言い渡した。

 隼三ちゃんは99年7月10日、割りばしをくわえたまま転倒し、翌朝死亡。その後の解剖で、頭蓋(ずがい)内から約7・6センチの割りばし片が見つかった。

 検察側は、耳鼻咽喉(いんこう)科の当直医だった根本被告が、コンピューター断層撮影など、必要な検査を怠ったまま、帰宅させ、死亡させたとして起訴していた。
(読売新聞) - 3月28日15時14分更新
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「治療したとしても延命の可能性が極めて低かった」として、無罪の判決。遺族側と担当医師のどちらに肩入れをするわけでもありませんが、妥当な判決だと思います。
子供が生きているうちに診断できず、亡くなってからはじめて死因が分かったという点で、ご両親が不満をもつのはわかりますが、だからといって、死亡した原因が担当医にあるとまでいうのは行き過ぎた論理です。
CTを撮っていれば、おそらく診断はついたでしょう。しかし、診断がついたからとはいえ、咽から刺さって、小脳の中に取り残された割りばしを取り除くのは、容易ではなかったでしょう。咽から摘出するにしても、頭の方から摘出するにしても、かなりの危険を伴うことは、容易に想像できます。

今回の判決、医療に従事するものとしては、正直いって、ほっと胸をなで下ろすものでした。しかしながら、この担当医は、裁判で争った数年間、どうしていたのか知りませんが、おそらく臨床どころではなかったのでしょう。患者さんの信頼も揺らいだかも知れません。医師の家族だって、さんざん嫌な思いをしたことでしょう。でも、そこまで悪いことをしたのでしょうか。

また、医療の現場へ与えた影響も少なくありません。本来検査というものは、診断や治療の為に行うべきなのですが、本質を逸脱して、とにかく「訴えられないように」検査するような風潮を生んだといえます。

6年間もの間、裁判で争って来たのだそうですが、亡くなった患者の遺族にとっても、訴えられた医師にとっても、医療界全体にとっても、なんだか、非常に不毛な裁判だった様な気がしてなりません。

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Commented by inoue0 at 2006-03-29 12:17
Excite!blogを検索しただけでも、業務上過失致傷罪の構成要件を理解していらっしゃらない方が多いようで、「過失はあったけれど無罪」の意味がわからないみたいです。こういう場合の過失責任は民法709条に基づいて民事裁判で行うべきで(すでに裁判は起こされてますが)、刑事責任は問えません。
Commented by jibikai at 2006-03-29 13:14
inoue0さん、
>「刑事責任は問えません。」というのはごもっともで、それは早く分かっていたはずなのですよね。なぜここまで裁判が長引いたのかということの方が、むしろ不思議なくらいだと思います。
Commented by inoue0 at 2006-03-29 20:57
事件のスジが悪いことは先刻ご承知のはずの検察官が、なぜこの事件を発生3年も経ってから、突然起訴したのかが問われるべきでしょう。裁判官が認定した医師の注意義務水準は少々高すぎるきらいがありますが、程度の問題でしかない。しかし、因果関係がないことは発生当初からわかってたじゃないですか。
Commented by jibikai at 2006-03-30 08:27
>inoue0さん。検察側には、”医者憎し”の世論を盛り上げれば、有罪に持って行ける自信はあったのでしょうか、それともダメもとで、起訴してみました。ということなのでしょうか。いずれにしても、検察側にももう少しリスクを負ってもらう仕組みがないと、こういう事例はなくなりませんね。
by jibikai | 2006-03-28 18:12 | Comments(4)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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