急性副鼻腔炎(その3) 〜診療シミュレーション〜
2006年 10月 13日
さて、急性副鼻腔炎で治療していたAさん、その後の経過はどうだったのでしょうか。
(例によって、ありがちなパターンを基礎に、架空の会話を想定しました。実話ではありません。)
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急性副鼻腔炎になってしまったAさん(43歳、女性)、真面目に通院している。
初診から10日目、今回が4回目の受診となる。
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医師「具合はいかがですか。」
Aさん「鼻汁は出なくなってきましたが、痰がからんで咳も出ます。」
医師「じゃあ、ちょっと診てみますね。」
(鼻と咽の診察後、)
医師「鼻の粘膜の腫れは、ほとんど引いていますね。鼻汁も吸引すると少し出るだけですし、色も透明になってきているので、大分良いと思います。咳と痰の原因は、後鼻漏(こうびろう)というのですが鼻汁が咽に流れ落ちて、咽にへばり付いて、咽を刺激しているのが原因みたいですね。」
Aさん「痰だと思っていたんですけど、鼻汁だったんですね。」
医師「痰は気管や喉など、下の方から上がって来るものなんですが、後鼻漏というのは鼻から咽に下がっていくもので、もとは鼻汁というか、副鼻腔で作られた粘液なわけです。」
Aさん「鼻汁は、前の方にはほとんど出ないんですけどね。」
医師「副鼻腔で作られた鼻汁は、角度の関係から前よりも、奥の方、つまり咽の方へと流れ落ちやすいんですよ。」
Aさん「なるほど。」
医師「じゃあ、今日はあとネブライザーをやってお終いですが、3〜4日後ぐらいにまたいらして下さいね。」
ーーーーーーーー初診から14日、5回目の受診ーーーーーーーーーーーー
Aさん「もう何ともなくなったので、仕事も忙しいしそろそろ治療終わりにして良いですか?」
医師「まずは、診てから相談しましょう。」
(診察後、)
医師「確かに鼻の粘膜の腫れも引いてるし、鼻汁も出ていないようですね。後鼻漏もなさそうです。でも、副鼻腔の粘膜の障害というのは、自覚症状がなくなって、鼻の中の腫れが引いてからも、もう少し続きますので、もう一度だけ、1週間後に診させて頂いた方が、良いと思います。薬は、抗菌力はさほど強くないのですが、副鼻腔の粘膜の働きをよくするような作用を併せ持ったのに、変更しますね。」
Aさん (しぶしぶ) 「わかりました。」
ーーーーーーーー初診から21日、6回目の受診ーーーーーーーーーーー
医師「変わりありませんでしたか?」
Aさん「ええ、何ともありませんでした。」
医師「じゃあ、診させて下さい。」
・・・・・・・・・(診察後)
医師「鼻の中も腫れているところはないようですし、鼻汁も出てないし、いいようですね。では、完全に治っているかどうか、レントゲンを1枚だけ撮って確かめましょう。」
(レントゲンを見て)
医師「前回見られた副鼻腔の影は、もう完全に消えているようですね。これならば、もう治療を終わりにして大丈夫でしょう。」
Aさん「ああ、よかった(笑)。
でも、もし影が消えていない場合はどうするんですか。」
医師「今回撮ったレントゲンは単純撮影といって、ずっと昔から撮っているやり方なんですが、
実は、副鼻腔に影があるからといっても、今回のような細菌性の炎症なのか、他の病気か、完全には区別できないんですよ。」
Aさん「他の病気といいますと?」
医師「左右どちらか片方だけの副鼻腔に影がある時に、一応、想定しておかなくてはいけない病気としては、上顎癌、副鼻腔真菌症、歯性上顎洞炎、良性の腫瘍などがあります。」
Aさん「へ〜、上顎癌って聞いたことはありましたけど、副鼻腔にできるんですか?」
医師「そうです。ですから、レントゲンで片方の上顎洞にだけ影があって、他の症状や内視鏡などでも癌が疑われる場合は、CTやMRIを撮る必要があります。」
Aさん(少し焦って)「私は大丈夫なんですよね。」
医師「そうですね。治療後、症状も鼻の中の所見も、レントゲンも良くなっていますので、まず上顎癌の心配は無いと考えて良いと思いますよ。」
Aさん「安心しました。今後、自分で気をつけることは何かありますか。」
医師「一度、副鼻腔炎になりますと、繰り返しなることもありますので、風邪を引いたら無理をしないこと、ハナはマメにかむこと。ぐらいでしょうかね。それでも、カゼを引いてまた同じ様な症状が出るようなら、早めに来て下さい。」
Aさん「カゼでも耳鼻科で診てもらえるんですか?」
医師「もちろんです。カゼは、鼻や咽にウイルスや細菌が感染して罹るわけです。耳鼻科医は鼻や咽を診るスペシャリストですから、安心してお任せ下さい。」
Aさん「分かりました。じゃあ、また具合が悪くなったら来ることにします。お世話様でした。」
医師「お大事になさってくださいね。」
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(ご注意)
シュミレーションシリーズとして、病気の特徴や治療の流れについて書いていますが、実際の診療の現場では、ここまで詳しく解説することは少ないです。この程度までは説明して、患者さんにも理解してもらえるといいな、というあくまでも理想像です。
現在、耳鼻科で治療中の方で、自分はこんな説明聞いていないぞ、と思われる方がほとんどと思いますが、診療中は時間的制約もあり、ひとりひとりにこれだけの説明を毎回するのは難しいのです。
あくまでも最大公約数的な解説ではあるのですが、病気の理解と、適切な治療を受けるために、少しでもお役に立てれば幸いに思います。
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(例によって、ありがちなパターンを基礎に、架空の会話を想定しました。実話ではありません。)
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急性副鼻腔炎になってしまったAさん(43歳、女性)、真面目に通院している。
初診から10日目、今回が4回目の受診となる。
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医師「具合はいかがですか。」
Aさん「鼻汁は出なくなってきましたが、痰がからんで咳も出ます。」
医師「じゃあ、ちょっと診てみますね。」
(鼻と咽の診察後、)
医師「鼻の粘膜の腫れは、ほとんど引いていますね。鼻汁も吸引すると少し出るだけですし、色も透明になってきているので、大分良いと思います。咳と痰の原因は、後鼻漏(こうびろう)というのですが鼻汁が咽に流れ落ちて、咽にへばり付いて、咽を刺激しているのが原因みたいですね。」
Aさん「痰だと思っていたんですけど、鼻汁だったんですね。」
医師「痰は気管や喉など、下の方から上がって来るものなんですが、後鼻漏というのは鼻から咽に下がっていくもので、もとは鼻汁というか、副鼻腔で作られた粘液なわけです。」
Aさん「鼻汁は、前の方にはほとんど出ないんですけどね。」
医師「副鼻腔で作られた鼻汁は、角度の関係から前よりも、奥の方、つまり咽の方へと流れ落ちやすいんですよ。」
Aさん「なるほど。」
医師「じゃあ、今日はあとネブライザーをやってお終いですが、3〜4日後ぐらいにまたいらして下さいね。」
ーーーーーーーー初診から14日、5回目の受診ーーーーーーーーーーーー
Aさん「もう何ともなくなったので、仕事も忙しいしそろそろ治療終わりにして良いですか?」
医師「まずは、診てから相談しましょう。」
(診察後、)
医師「確かに鼻の粘膜の腫れも引いてるし、鼻汁も出ていないようですね。後鼻漏もなさそうです。でも、副鼻腔の粘膜の障害というのは、自覚症状がなくなって、鼻の中の腫れが引いてからも、もう少し続きますので、もう一度だけ、1週間後に診させて頂いた方が、良いと思います。薬は、抗菌力はさほど強くないのですが、副鼻腔の粘膜の働きをよくするような作用を併せ持ったのに、変更しますね。」
Aさん (しぶしぶ) 「わかりました。」
ーーーーーーーー初診から21日、6回目の受診ーーーーーーーーーーー
医師「変わりありませんでしたか?」
Aさん「ええ、何ともありませんでした。」
医師「じゃあ、診させて下さい。」
・・・・・・・・・(診察後)
医師「鼻の中も腫れているところはないようですし、鼻汁も出てないし、いいようですね。では、完全に治っているかどうか、レントゲンを1枚だけ撮って確かめましょう。」
(レントゲンを見て)
医師「前回見られた副鼻腔の影は、もう完全に消えているようですね。これならば、もう治療を終わりにして大丈夫でしょう。」
Aさん「ああ、よかった(笑)。
でも、もし影が消えていない場合はどうするんですか。」
医師「今回撮ったレントゲンは単純撮影といって、ずっと昔から撮っているやり方なんですが、
実は、副鼻腔に影があるからといっても、今回のような細菌性の炎症なのか、他の病気か、完全には区別できないんですよ。」
Aさん「他の病気といいますと?」
医師「左右どちらか片方だけの副鼻腔に影がある時に、一応、想定しておかなくてはいけない病気としては、上顎癌、副鼻腔真菌症、歯性上顎洞炎、良性の腫瘍などがあります。」
Aさん「へ〜、上顎癌って聞いたことはありましたけど、副鼻腔にできるんですか?」
医師「そうです。ですから、レントゲンで片方の上顎洞にだけ影があって、他の症状や内視鏡などでも癌が疑われる場合は、CTやMRIを撮る必要があります。」
Aさん(少し焦って)「私は大丈夫なんですよね。」
医師「そうですね。治療後、症状も鼻の中の所見も、レントゲンも良くなっていますので、まず上顎癌の心配は無いと考えて良いと思いますよ。」
Aさん「安心しました。今後、自分で気をつけることは何かありますか。」
医師「一度、副鼻腔炎になりますと、繰り返しなることもありますので、風邪を引いたら無理をしないこと、ハナはマメにかむこと。ぐらいでしょうかね。それでも、カゼを引いてまた同じ様な症状が出るようなら、早めに来て下さい。」
Aさん「カゼでも耳鼻科で診てもらえるんですか?」
医師「もちろんです。カゼは、鼻や咽にウイルスや細菌が感染して罹るわけです。耳鼻科医は鼻や咽を診るスペシャリストですから、安心してお任せ下さい。」
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現在、耳鼻科で治療中の方で、自分はこんな説明聞いていないぞ、と思われる方がほとんどと思いますが、診療中は時間的制約もあり、ひとりひとりにこれだけの説明を毎回するのは難しいのです。
あくまでも最大公約数的な解説ではあるのですが、病気の理解と、適切な治療を受けるために、少しでもお役に立てれば幸いに思います。
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by jibikai
| 2006-10-13 15:21
| 鼻のはなし
|
Comments(2)