急性副鼻腔炎(その3) 〜診療シミュレーション〜

さて、急性副鼻腔炎で治療していたAさん、その後の経過はどうだったのでしょうか。

(例によって、ありがちなパターンを基礎に、架空の会話を想定しました。実話ではありません。)

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急性副鼻腔炎になってしまったAさん(43歳、女性)、真面目に通院している。
初診から10日目、今回が4回目の受診となる。
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医師「具合はいかがですか。」
Aさん「鼻汁は出なくなってきましたが、痰がからんで咳も出ます。」
医師「じゃあ、ちょっと診てみますね。」

(鼻と咽の診察後、)

医師「鼻の粘膜の腫れは、ほとんど引いていますね。鼻汁も吸引すると少し出るだけですし、色も透明になってきているので、大分良いと思います。咳と痰の原因は、後鼻漏(こうびろう)というのですが鼻汁が咽に流れ落ちて、咽にへばり付いて、咽を刺激しているのが原因みたいですね。」
Aさん「痰だと思っていたんですけど、鼻汁だったんですね。」
医師「痰は気管や喉など、下の方から上がって来るものなんですが、後鼻漏というのは鼻から咽に下がっていくもので、もとは鼻汁というか、副鼻腔で作られた粘液なわけです。」
Aさん「鼻汁は、前の方にはほとんど出ないんですけどね。」
医師「副鼻腔で作られた鼻汁は、角度の関係から前よりも、奥の方、つまり咽の方へと流れ落ちやすいんですよ。」
Aさん「なるほど。」

医師「じゃあ、今日はあとネブライザーをやってお終いですが、3〜4日後ぐらいにまたいらして下さいね。」


ーーーーーーーー初診から14日、5回目の受診ーーーーーーーーーーーー

Aさん「もう何ともなくなったので、仕事も忙しいしそろそろ治療終わりにして良いですか?」
医師「まずは、診てから相談しましょう。」

(診察後、)
医師「確かに鼻の粘膜の腫れも引いてるし、鼻汁も出ていないようですね。後鼻漏もなさそうです。でも、副鼻腔の粘膜の障害というのは、自覚症状がなくなって、鼻の中の腫れが引いてからも、もう少し続きますので、もう一度だけ、1週間後に診させて頂いた方が、良いと思います。薬は、抗菌力はさほど強くないのですが、副鼻腔の粘膜の働きをよくするような作用を併せ持ったのに、変更しますね。」
Aさん (しぶしぶ) 「わかりました。」

ーーーーーーーー初診から21日、6回目の受診ーーーーーーーーーーー
医師「変わりありませんでしたか?」
Aさん「ええ、何ともありませんでした。」
医師「じゃあ、診させて下さい。」

・・・・・・・・・(診察後)
医師「鼻の中も腫れているところはないようですし、鼻汁も出てないし、いいようですね。では、完全に治っているかどうか、レントゲンを1枚だけ撮って確かめましょう。」

(レントゲンを見て)
医師「前回見られた副鼻腔の影は、もう完全に消えているようですね。これならば、もう治療を終わりにして大丈夫でしょう。」
Aさん「ああ、よかった(笑)。
         でも、もし影が消えていない場合はどうするんですか。」
医師「今回撮ったレントゲンは単純撮影といって、ずっと昔から撮っているやり方なんですが、
実は、副鼻腔に影があるからといっても、今回のような細菌性の炎症なのか、他の病気か、完全には区別できないんですよ。」

Aさん「他の病気といいますと?」
医師「左右どちらか片方だけの副鼻腔に影がある時に、一応、想定しておかなくてはいけない病気としては、上顎癌、副鼻腔真菌症、歯性上顎洞炎、良性の腫瘍などがあります。」

Aさん「へ〜、上顎癌って聞いたことはありましたけど、副鼻腔にできるんですか?」
医師「そうです。ですから、レントゲンで片方の上顎洞にだけ影があって、他の症状や内視鏡などでも癌が疑われる場合は、CTやMRIを撮る必要があります。」

Aさん(少し焦って)「私は大丈夫なんですよね。」
医師「そうですね。治療後、症状も鼻の中の所見も、レントゲンも良くなっていますので、まず上顎癌の心配は無いと考えて良いと思いますよ。」

Aさん「安心しました。今後、自分で気をつけることは何かありますか。」
医師「一度、副鼻腔炎になりますと、繰り返しなることもありますので、風邪を引いたら無理をしないこと、ハナはマメにかむこと。ぐらいでしょうかね。それでも、カゼを引いてまた同じ様な症状が出るようなら、早めに来て下さい。」

Aさん「カゼでも耳鼻科で診てもらえるんですか?」
医師「もちろんです。カゼは、鼻や咽にウイルスや細菌が感染して罹るわけです。耳鼻科医は鼻や咽を診るスペシャリストですから、安心してお任せ下さい。」

Aさん「分かりました。じゃあ、また具合が悪くなったら来ることにします。お世話様でした。」
医師「お大事になさってくださいね。」

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(ご注意)
シュミレーションシリーズとして、病気の特徴や治療の流れについて書いていますが、実際の診療の現場では、ここまで詳しく解説することは少ないです。この程度までは説明して、患者さんにも理解してもらえるといいな、というあくまでも理想像です。
現在、耳鼻科で治療中の方で、自分はこんな説明聞いていないぞ、と思われる方がほとんどと思いますが、診療中は時間的制約もあり、ひとりひとりにこれだけの説明を毎回するのは難しいのです。
あくまでも最大公約数的な解説ではあるのですが、病気の理解と、適切な治療を受けるために、少しでもお役に立てれば幸いに思います。
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Commented by kawasaki at 2013-10-06 16:48 x
なかなかここまで副鼻腔炎の症状の変化を書いているサイトはありません。最近、急性副鼻腔炎になり耳鼻科に通院していますが、咳と痰がからむ症状だけがまだ残っていて、まだ治らないのかと不安になっていましたが、完治するまでに通る過程のようだとわかり安心しました。
Commented by jibikai at 2013-10-08 15:06
kawasakiさん、コメントありがとうございます。
お役に立てたようで、嬉しく思います。
by jibikai | 2006-10-13 15:21 | 鼻のはなし | Comments(2)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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