医療とネット(後編)

3回にわたって、医療とネットの問題、特に患者さんの立場で、症状や病名から検索した場合に目的とする医療情報にうまくたどり着けるかどうか、ということについてお話ししていますが、今回は実際に「耳鳴」というキーワードでGoogle検索してみて、どんなサイトがヒットするか試してみることにします。

「耳鳴」というキーワードを選んだのは、よくある症状の割には原因が多岐にわたる上、治療もなかなかスッキリとはいかないものなので、サイトによって解説の内容に差が出やすいと思ったからです。

googleではなんと1220,000件ものサイトがヒットしました。もちろん全部調べるのは不可能ですし、実際の場面でも上位に表示されるの数個から数十個程度のサイトを見るのが一般的と思われます。そこで、今回は上位40件のサイトについて、執筆者や内容等について検討してみました。40件のうち医学や医療とは無関係なものとして、小説や音楽の題名に「耳鳴」という言葉が使われているものが9件あり、これらをまず検討の対象から除外し、残る31件のサイトについてみてみました。
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図1:執筆者別の割合

執筆者別の割合をみますと、医師(全て耳鼻咽喉科医でした)が12件(39%)、代替医療や東洋医学を専門としている者(鍼灸師や漢方医)が5件(16%)、無資格診療を行う者(整体師など)が7件(23%)、中立的立場(いわゆるポータルサイトなど)が5件(16%)、その他が2件(6%)という結果でした。医師が執筆しているサイトがもっと多くてもよさそうなものなのですが、医者は忙しくてそこまで手が廻らないのか、医師によるサイトは多いのに検索エンジンに引っかかりにくいのか、その辺は不明です。意外と多いのが、無資格診療を行う者によるサイトでしたが、これには憂慮を覚えます。

次に、執筆者別の分類毎に内容もみてみました。
医師のサイトでは耳鳴の分類、原因となる病気、検査、治療法などについて、主として患者さん向けに教科書的に解説しているところがほとんどでしたが、特に新しい治療法としてTRT療法というものを医師向けに詳細に解説しているサイトもありました。医師のサイトは当然のことながら、同業者である私から見れば内容としては妥当なものばかりなのですが、何故かデザインが洗練されておらず、見栄えのしないものが多いことが残念です。開業医ですとホームページを持っている所自体、意外にまだまだ少ないし、作っているところも(私の所もそうなのですが)あまり金もかけられないので、手作りの所が多いし、こったデザインにも出来ないんだろうなと想像します。かといって、学会系のところが充実しているかというと、こちらもまだまだこれからというところでしょう。
また今回検討したサイト40位以内には入っていないのですが、ある内科医なのですが、めまい、難聴、耳鳴りに対して”異端”と思われる治療をしている先生がいて、ネット上でめまいを専門としている耳鼻咽喉科医師とその治療法を巡って、意見を戦わせているような事例もあり、どちらが正しいかは別として、非常に興味深いです。

代替医療、東洋医学を専門としている者によるサイトでは、ツボの概念、漢方薬の概念はなかなか理解しにくいところはあるものの、診断、治療には理論的な裏付けのあるものありますので、非科学的と全てを否定はできなさそうです。実際、漢方薬でも耳鳴に保険適応のあるものもあり、西洋医学と全て相反するというものではないように思います。

無資格診療とは国家資格を持たずに医療行為まがいを行う人たちですが、これには整体師、カイロプラクター、ヒーラー、施術家などと名乗っている人たちが含まれます。この人たちのサイトに共通しているのは、最初の方では耳鳴の分類など西洋医学的な説明をしますが、耳鳴の原因が西洋医学では解明されていないということを、必要以上に強調していることです。また、耳鼻咽喉科を受診しても原因不明であると言われるとか、耳鳴は完全には治らないので、あきらめなさいなどと言われるケースが多いことを強調したがります。その後の展開としては、我田引水とばかりに、耳鳴の原因は頸椎の歪みにあるとか、自律神経のトラブルだとか、肩こりだとか、顎関節の歪みにあるだとか、自分たちの得意そうな分野へと引き込もうとする傾向があります。最後まで読んでいくと、健康体操の解説DVDや、遠赤外線治療器などの健康器具のの購入申し込みのページやに行き着きます。こういう人たちに一言言ってやりたいのは、「医者は少なくともあなた達よりも耳鳴りについてはよく知っていますし、治療も消極的なわけではない。ただ、何でもかんでも安易に”治ります”と安請け合いせず、症状や疾患を客観的に評価しているだけである。耳鳴の原因の一部にはあなた方のいうようなものも含まれるかも知れないが、むしろそれらは少数である。何でもかんでも頸椎の歪みに原因があるなんて恥ずかしいことを言えるのは、真摯に医学や科学を学んでいないからなんじゃないですか?」ということです。この無資格診療、あるいはニセ医療がまかり通っているということについては、非常に憂慮すべきことなのですが、実際に被害者がでないことには関係当局も見て見ぬふりなので困ったものです。

次の中立的立場というのは、耳鳴について総合的に解説しているポータルサイトで、ヤフーとグーグルなどの大手企業のサイトの健康特集のようなものや、個人が簡単な解説やいろいろな情報へのリンク集を作っているサイトが含まれます。大手のポータルサイトは、おそらく耳鼻咽喉科専門医が監修していると思われ、内容は妥当なものだし、外部リンクも貼られていますが、確かな情報を得るためのリンクなのか、単なるスポンサーサイトなのかの区別も比較的はっきりしており、間違って変な健康器具を買ってしまうことも少ないと思います。一方、個人がやっているようなポータルサイトは、結構怪しげな健康食品や整体院などへのリンクが結構多く、アフェリエイトの収入目的なんでしょうが、そういったサイトについてはあまり存在意義を感じませんでした。今回ヒットした40件以外にはもちろん、個人のサイトでもきちんとした考え方で運営されている、真面目で優良なサイトもあります。そういうところは概して、無責任なリンクは貼っていないようです。

その他としては、耳鳴で治療を受けている患者さんのブログと、TRTという新しい耳鳴治療に使う機械のメーカーのサイトがありました。

今回、「耳鳴」というキーワードで検索してみて思ったことは、医師の執筆しているサイトが思った以上に少ないことと、逆に無資格医療を行う人達のサイトが多く、一見すると医師のサイトよりも見栄えもするし、いかにも耳鳴を専門的に治療しているような触れ込みをしているので、そこを信頼してしまう方も結構いらっしゃるんじゃないかということが気になりました。
まあ、彼等のほうが医者よりも早くからネットを宣伝に上手く利用しているということなのですね。医者はちょっと遅れをとってしまいましたが、これからは医師個人も学会も、より正しい医療情報を広めていくためにネットを大いに利用してくべきでしょう。

最後に、「無資格診療」と聞いてもピンと来ない方もいらっしゃるかも知れませんが、要するに国家資格を持たずに、診療(類似)行為をすることです。その何が問題なのかについては、また機会がありましたら、まとめて記事にしたいと思います。

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Commented by osha-p at 2007-05-18 22:20
こんばんは 「耳鳴り」ほど絶対的な症状と患者の悩ましさが比例しないものはないのではないでしょうか?
無資格系のサイトでびっくりした事は、私の文が使われてるなと非常に疑わしいサイトがありました。PCで簡単にコピペできるからでしょうね。
「異端」の内科医のサイトはたぶん「めまい」系では高順位かと思いますが、よく話題になります。この内科医だけでなく「無資格医療」系サイトはマスコミやネットを上手に利用されてるようですが、「耳鳴り」のように西洋医学系では「治らない」とされる症状でもよくなった事例がある(?)だけに藁をもすがる気持ちの人は飛びついてしまうのでしょうね。冷静な客観的な判断ができるような指針となるようなサイトがあると、できれば学会系がそうなれるといいですね。
Commented by jibikai at 2007-05-18 23:49
>osha-pさん、こんばんは。
耳鳴の客観的な評価は、「耳鳴検査」というもので行われ、オージオメータでできるのですが、ちょっと手間がかかるので、どうしても省略しがちになってしまいます。我が身を振り返って、それは反省すべきかも知れませんね。
無資格系のサイトでは、自分たちに都合の良い理論だけつぎはぎしているように見えるのが多いです。一番心配なのは、突発性難聴のように早期治療の必要な状態にもかかわらず、たまたま、無資格系のサイトを見てしまったが為に、適切な治療のタイミングを逃してしまうことです。
患者さんもネットを利用して自己判断してから受診すべきかどうか考える時代だと思いますので、その際に役に立つような標準的な知識が得られるようなサイトが必要となってきています。学会主導でやってくれるのが一番いいのですが、まだ充実しておらず、これからなんでしょうね。
Commented by ちょこ at 2007-05-19 09:53 x
先生こんにちは。
結局、最後に「営業」に辿りつくサイトは疑ってしまいます。体験記なんてでっちあげ?誇張?みたいな。文章では「本当のトコロ」は分からないですよね。
そうそう、去年二人の耳鼻科の先生にお世話になりましたが、二人の先生に「真逆のこと」を言われたのには参りました。さまざまな事象に逆説が存在することは理解しますが…どれだけ専門家の手によるサイトが充実しても、最後には自分の判断が必要なんでしょうね。
…ところで、この記事を書くきっかけになった「手」は完治しましたか?(笑)
Commented by jibikai at 2007-05-19 12:34
>ちょこさん、こんにちは。そうですね、「体験記」っていうのはホント怪しいです。 医療関係に限らず、よくTVのCMやチラシなんかでも「効果を保証するものではなく、個人の印象です・・・」なんて小さく申し訳なさそうに断り書きがしてあるのを見かけますが、「それを最初に言えよ!」と突っ込みたくなります。うん、「体験談商法」、これブログネタになりそうですね。笑える体験談とか・・・
また、「なぜ医者によって言うことが変わるのか?」その辺のところも重要なテーマですね。ヒントをありがとうございます。

ところで、指先はおかげさまで完治しました。いや〜、ひどい目に遭いました。
by jibikai | 2007-05-17 18:11 | Comments(4)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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