耳鼻科医のお買い物

しばらく時事ネタを続けましたが、ネット上のニュースを見ましてもあまり目新しいネタもないことですので、今日はちょっと趣向を変えて、「お買い物」の話でもしてみたいと思います。「お買い物」といいましても、スーパーに食材を買いに行くとか、デパートの服を買いにいくとか、そういう話ではなくて、仕事に使う色々な物品の購入についての話をしたいと思います。

 まず診療をしていく上で、どうしても必要になってくるのが、医療器械というものです。私の診療所も開業して10年目なので、当然古くなるものもありますし、技術の進歩により新しく出てきた器械などは魅力的なものがたくさんあります。もちろん魅力的だからと全部買うわけにはいきませんから、取捨選択していくことになります。その基準は、当たり前ですが「コストパフォーマンス」ということになろうかと思います。例えば検査や治療に使う器械であれば、次のような式に色々な要素を当てはめて買うか買わないかを決めます。
(予想される使用頻度)×(検査や治療で得られる保険点数)
-{(値段)+(器械を使う上での労力)}
何かを買いたくなったときや、器械屋に勧められたときには、この式に当てはめてプラスが多ければ買いますし、マイナスが多ければもちろん買わないようにしています。要するに採算性とか、コストパフォーマンスを考えてから購入するということで、当然のことです。ところが採算性やコストパフォーマンスを度外視しても、揃えておかなくちゃいけないものや、つい買ってしまうものもあります。

 たとえば、「処置ファイバー」というもの。これは喉の奥を診るファイバースコープの先端から、鉗子といってピンセットの先のようなものが飛び出すようになっていたり、先端に吸引のための孔が開いていたりすることによって、喉の奥を診ながら、処置ができるという優れものなのですが、開業医レベルですと意外と出番が無いのです。用途といえば、組織検査のために喉の粘膜を一部採取したり、咽の異物を取ったりすることです。病院ですと、喉の腫瘍などが疑われる場合に病理組織検査が必須なので、使用頻度は高いのですが、開業医では喉の腫瘍は稀ですし、癌が疑われる場合でも自前では治療できませんから、下手に手出しせずに病院に紹介するわけです。ということで耳鼻咽喉科開業医では、あまり病理組織検査をしないので、その分、処置用ファイバーの使用頻度は少なくなります。では何で持っているのかといいますと、魚の骨などの異物を取るだけです

魚の骨は口から見える場所に刺さっていることが、どちらかというと多いのですが、時々、舌の付け根の部分とか、食道の入り口の一歩手前の下咽頭(かいんとう)というところに刺さっていることもあります。その場合処置用ファイバーがないと、見えていても取れないという、非常に悔しいことになりますから、開業の時に買っておきました。ただし年間の使用頻度は3〜4回位なので、開業してからこれまでの10年近くの間に、わずか30〜40回しか使っていない計算になり、予想されたこととはいえ、見事に採算割れしています(泣)。しかし、患者さんにはわざわざ病院にいってもらわなくとも済んでいるわけですので、まあ、それはそれで良いと思っております。

一方、観察用のファイバー(すなわち鼻や喉のどこが悪いのかを診るだけのためのもの。処置はできない代わりに、非常に細く、患者さんのつらさも少ないわりに、見え方は良い。)は、非常に使用頻度が多く一日で多いときには10回以上は使いますので、これは直ぐに元が取れてしまう器械です。最近ファイバースコープの主流は、光学式のものから、デジタルビデオ方式のものに変わってきており、見え方が圧倒的に良くなりました。ここ数年で価格もこなれてきましたので、実は昨年、私のところでも買いました。ちょっとしたファミリーカーが充分買える位の値段でしたし、2本持っている光学式のものもまだまだ使えましたので、ちょっとためらいはあったのですが、今は充分満足しております。たまに従来の光学式のファイバースコープを使いますと、暗いし解像度は低いしでビックリするほどです。以前はそれで全く不満を抱かずに診療していたわけですから、慣れというのは恐ろしいものです。

という風に開業医は欲しい器械は自分の責任において、買ったりリース契約を結んだりするわけで、それが楽しみといえば楽しみなのかも知れません。何か欲しいものがある、というのも仕事に対するモチベーションを保つ上でも、良いことと思います。
勤務医の場合、欲しい器械があっても年に1度程度の機器選定委員会なんていう会議で、何とか必要性とか採算性を訴えて、病院に予算を付けて買ってもらうしかないのです。このご時世、医療機関はどこもかしこも貧乏ですから、なかなか思うようにいかないのが常です。とくに、稼ぎの悪い科はなかなか予算も付けてもらえず、近代的な診療もままならず、また医者のモチベーションも低下しやすいですから、ますます稼ぎが悪くなり、負のスパイラルに陥らないとも限りません。

普通の稼ぎであれば、結構高い機械でも毎年病院側に要求していれば買ってもらえるんでしょうが、それでも病院の場合は医者の移動もありますから、せっかく長年にわたって要望してきた器械が導入されて、これで「バリバリ働くぞ!」と張り切っていたとたんに、他の病院に飛ばされてしまい、結局使えずじまいなんて、笑えない話もよくあります。

私の診療所に話を戻しますと、数百万レベルの器械を買えるのは、数年に一度ぐらいです。一昨年は医療機器ではないのですが、レセコン(レセプトコンピュータ;窓口会計や診療報酬請求に使うもの)を新しくして、あとは豪雪に備えて自前の除雪車を買い、去年は先ほどお話ししました、電スコを購入。お陰で去年の後半はかなり預金残高が減って大変でしたから、今年は大きい買い物はできそうにありません(泣)。唯一、購入予定に入れているのは、コンピュータソフトだけ。このソフト、実は先日オンライン・ショップでついクリックしてしまったのですが、ソフトのくせに結構な値段。発売日まではもう少しあるので、手許にはまだありません。なにしろ、その道のプロ用のソフトなので、はっきり言って使いこなせるかちょっと自信がないのですが、まあ修行のつもりで予約しました。皆さんも興味を持つかも知れないソフトなので、現物が手には入ったら使い心地などリポートしたいと思います。

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Commented by osha-p at 2007-06-03 11:01
お医者さんというと、高級外車というイメージですが、日々の収入に対して器械のお値段はかなりのモノなんですね。うちも商売してますが、不景気産業なのでレベルは違いますが、感覚的にはわかります。この前、Adobe criative suiteを購入しましたが、ソフトは高いですね~。
Commented by ちょこ at 2007-06-03 19:09 x
先生こんにちは。
病院に行くと当たり前のように、色んな機械装置で検査や処置を受けていますけれど、先生方の色々な苦労・苦悩の恩恵を受けているんですねぇ。感謝感謝。(…いや、私の通っていたところはどうだかわかりませんが、そうと信じたい…)
そうそう、私がニヤニヤしたのは3枚目、一番先生らしいな~と思ったのは4枚目でした。画像編集系のソフトでは?と予想。 では♪
Commented by jibikai at 2007-06-03 21:18
>osha-pさん、こんばんは。高級外車も魅力的なのですが(笑)、通勤にしか使わないのでは、宝の持ち腐れになってしまいますので、日々使う器械の方が先です。そう、実は私も気がついたら、Adobe CSをオンラインショップでカートに入れていたのでした。CS3なので今月末か7月初めに発送とのこと。これでcriativeな仕事ができるかは、今後の努力次第です(汗)。
Commented by jibikai at 2007-06-03 22:43
>ちょこさん、こんばんは。医療機器というのは、突然変異的に発展するものと、博物館入りするような歴史のあるものが、そのまま使われていたりするものもあります。やはり突然変異的に発展したものは、欲しくなってしまいます。
そうそう、今年の買い物の目玉は、画像処理系のソフトです。何本かのソフトでワンセットとなっています。単品のを買い集めるよりはお得なので、つい買ってしまいました。主にはウエブ・サイト作成が目的なんで、まあ外注するよりは安いかと・・・
by jibikai | 2007-06-02 17:58 | プロフィール・雑感 | Comments(4)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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