急性中耳炎の疫学

あまり写真ネタばかり続けていると、何のブログか分からなく分からなくなりますので、そろそろ耳鼻科的話題を。

開業医も10年近く続けておりますと、いろんな医学的データが貯まってきます。データは使えば宝物ですが、放っておけばただのゴミ。かといって、個人情報になるようなものは出せませんから、ネット上に掲載するものとしては、疫学的な話題が適当かと思っています。もちろんいろんな病気についての統計学的な研究は、既になされているものが多いのですが、ほとんどの医学論文などは病院の先生方がまとめられたデータが多く、開業医がデータをとっているというのはさほど多くないんじゃないかと思います。ところが、疾患によっては病院よりもまずは開業医を受診するようなもの、たとえば急性中耳炎やアレルギー性鼻炎、低音障害型感音性難聴などの比較的頻度の高い、身近な疾患については、むしろ開業医でのデータも取ってみた方が、より病気の本質に近づける場合もあり、それなりに意味のあることと思います。

ということで、今回も当院のデータベースからネタを作ってみました。今回のテーマは、急性中耳炎はどんな人がなりやすいか、という話です。

さて、急性中耳炎といいますと、耳鼻科の代表的疾患で症状は耳痛(じつう;耳が痛くなること)や、耳漏(じろう;いわゆる”耳だれ”)です。発症には衛生事情や栄養事情が関係し、後進国では多く、先進国では比較的少ないといわれています。年齢的には従来より幼小児期に多く、大人には少ないと言われておりますが、特に近年は低年齢化ということが言われております。また、最近問題となっているのは、起因菌としての耐性菌の増加とそれに伴う、重症化例、反復例です。

と、まあ基本的なことは耳鼻科医なら誰でも知っているわけなのですが、教科書や論文を丸写ししてもあまり意味がないので、自分の診療所ではどうか、ということについてまとめてみます。

開業してから、今年の6月までの9年2ヶ月の間、急性中耳炎で初診した方は709名で、その間当院を受診した患者さんの5.7%を占めました。その年齢、性別の分布をグラフに表してみます。

青が男、赤が女の積み上げ棒グラフとしました。男女差はほとんどないことがわかります。年齢は、まず10歳毎に区切ってみましたが、ほとんどが10歳未満であることが分かります(1)。
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では、10歳未満の子供うち、どの年齢層に多いのかをさらに細かく見てみたのが、次のグラフです。
急性中耳炎の疫学_e0084756_12233531.gif

1歳毎に区切って、同じように積み上げ棒グラフにしてみましたが、各年齢でみても男女差のないことがわかります。年齢別では、1歳(2)と3~4歳(3)にピークのあることがわかります。

以前から急性中耳炎は3,4歳に多いということはいわれており、また最近特に発症が低年齢化してきているということはいわれており、それを裏付ける結果となりました。しかし、ちょっと不思議なのが、2歳はその前後と比べて少ないことと、なぜ、0〜1歳に多くなったかということです。一つ考えられるのは0〜1歳発症の群と、3〜4歳発症の群では、急性中耳炎の多発する理由が若干異なる可能性です。

0〜1歳児の急性中耳炎増加の原因としていわれているのは、この時期に集団保育、つまり保育所などに預けられるケースの増加です。根底には、核家族化、共働き家庭の増加、シングルマザーの増加、女性の社会進出などなど、いろんなことがあるのでしょうが、日中は親元を離れて、集団保育を受ける子供が多くなっているのは間違いがないようで、家庭で生活をしている子の急性中耳炎の発症率は変わらなくとも、保育所にいる子で急性中耳炎にかかる子が増えれば、全体として低年齢児の急性中耳炎が増えてくるというわけです。

低年齢から預けられることの何が問題かといいますと、細菌やウイルスに対する抵抗力(すなわち免疫能)が不十分なうちに、年長児のもつ色々な病原体にさらされることです。また、こんなことを書くと反発を受けるかも知れませんが、集団保育せざる終えない子の場合は栄養状態も良くない(要するにちゃんと食事を摂っていない)ケースも多く、それで一層感染症にかかりやすいことも想像されます。

ですから、特に急性中耳炎にかかった乳児を診察する際、問診しておくべきことは、家で生活しているのか、保育所で集団保育を受けているのかということです。
以下は、当院を急性中耳炎で受診した0〜1歳児の保育環境です。
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保育所などで集団保育を受けていた子が45%、家庭にいる子が8%、問診で確かめていなかった例が47%でした。保育環境を確かめたうちのほとんどが、集団保育を受けていたということからは、やはり特に0〜1歳児においては、集団保育が急性中耳炎発症の大きなリスクファクターになっている可能性が高いと思われました。
ただ厳密には、急性中耳炎の有無にかかわらず、この年齢で集団保育を受けている子がどのぐらいの割合でいるのかも確かめなければならないし、診察の時にはもれなく保育環境を確かめなければ、確かなデータとは言えません。

もう少し、調べてみて何か分かりましたら、ブログかHPにてまたご報告したいと思います。
Commented at 2007-09-16 11:10
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by jibikai at 2007-09-16 12:41
>鍵さん、了解です。確かにそのようですね。ちょっと調べてみます。
ありがとうございました。
by jibikai | 2007-09-15 12:28 | 耳のはなし | Comments(2)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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