急性感音難聴、進行性感音難聴
2008年 01月 11日
当ブログは、「耳鼻科医の診療日記」と銘打っておきながら、耳鼻科の話題は半分にも満たなかったりするのですが、それでも専門的な話題にもコメントを色々いただけると、俄然やる気が沸いてきます。
耳鼻科の話にはを見ても分かるとおり、耳、鼻、咽喉頭などの部位別「タグ」を付けているのですが、エントリー数は鼻(34)、耳(29)、のど(26)となっており、もうちょっと耳の話題を頑張って提供しようと思っているところでした。
さて、というわけで今回も耳の話です。
前回のエントリーでは、突発性難聴(TVやネットのニュースでは”突発性内耳障害"という病名を使っていますが、”突発性難聴”の方が病名としては一般的です。)を中心にお話ししました。今回は突発性難聴と同様に、急に起こる感音性難聴として発症して、時として耳鳴やめまい発作を伴いながら、感音難聴が進行するような疾患をいくつか列挙してご説明したいと思いまので、興味のある方は目を通してみて下さい。
[突発性難聴]
特別な誘因がなくある日突然発症する内耳性難聴。症状は突然聞こえなくなることであるが、耳鳴りやめまい、聴覚過敏などを伴うことも多い。直接的な原因は内耳へのウイルス感染、内耳の微小循環障害、自己免疫(自分の身体を攻撃しようとする抗体が作られ、内耳をターゲットとして認識、破壊する)などが考えられていえる。風邪症状や過度の心的ストレス、過重労働などによる体力的な疲れなどがあると発症しやすい。
内耳は耳を構成している器官としては最も深部にあり、しかも微細な構造が聞こえの機能を支えているので、なかなか原因が絞りきれないことと、おそらく個々のケースでにおいて原因が異なることも診療を難しくしている。
ステロイドの点滴療法は有効といわれているが、必ずしも全例に効果があるわけではないので、その他には高圧酸素療法、抗ウイルス剤の点滴、ビタミン剤、循環改善剤などを組み合わせて治療する。発症後の時間経過とともに、治る確率は低くなってくるので、早期の治療開始が望ましい。
[ 急性低音障害型感音難聴]
比較的新しい疾患概念であるため、低音障害型突発難聴、低音型突発性難聴、急性低音障害型感音性難聴などなど様々な病名で呼ばれ、未だ統一されていない。
内耳のトラブルが原因で、ある日突然聞こえが悪くなるのは突発性難聴と同様であるが、当疾患では125〜500 Hz(ヘルツ)の低音のみの聞こえが障害され、また比較的治りやすいので、突発性難聴とは病態が異なるものと考えられている。症状は突然の難聴であるが、耳閉感(じへいかん;耳の塞がる感じ)の強いことが特徴である。多くの場合片側だけかかるが、両側に発症することもある。めまいは伴わず、もし耳閉感とともにめまいが起こる場合はメニエール病の可能性が高くなる。
直接的な原因はメニエール病と同様に内リンパ水腫が考えられている。発症のきっかけとなるのは過重労働や人間関係などによる心理的、体力的ストレスや寝不足などのことが多い。
治療にはステロイドが有効であるが、高浸透圧利尿剤(イソバイド、メニレットゼリー)で充分という意見もあるし、自然治癒も多いので安静とビタミン剤のみで数日間は様子を見て良いという意見もある。
ほとんどのケースは数日程度で改善するが、一部、発症後難聴がさらに進行するケースもある。また繰り返すケースもあり、その場合メニエール病との区別が難しくなる。
[メニエール病]
メニエル病、メニエル氏病ともいう。
難聴、耳鳴、めまいを三主徴とする。めまいを伴わないものは蝸牛型メニエール病というが、低音障害型感音性難聴との鑑別が難しい。かつて、めまいがすれば全てメニエール病といわれた時代があったが、実際にはめまい症例のうちに占める割合としては数パーセント程度と思われ、さほど頻度は高くない。
難聴は発症時は低音障害型が多いが、発作を繰り返す毎に水平型に近づく。耳鳴は非発作時にも持続することもあるが、発作時に強くなる。めまいは発作時には回転性(周りがぐるぐる回る、自分がぐるぐる回る)であるが、ある程度落ち着いてくるとフワフワした感じや、まっすぐ歩こうっとしてもどちらかに寄りそうな感じになる程度であることも多い。
治療は薬物療法が中心で、非発作時には高浸透圧利尿剤(イソバイド、メニレットゼリー)、ビタミンB12などを内服するが、発作時にはそれに加えてステロイドを用いることも多い。また、発作に対する恐怖が強く、それがまたストレスになり発作を誘発してしまうような場合には、精神安定剤や抗不安薬も併用する。めまいに対しては手術も有効なケースもあるが、進行したメニエール病の聴力を改善させる術式は、現在のところはない。
[聴神経腫瘍]
第八脳神経である聴神経にできる神経鞘腫。良性の脳腫瘍である。内耳道(ないじどう)といういわば聴神経を入れた、骨で囲まれた通路の中にできるが、大きくなると頭蓋内の小脳と脳幹の境目の方向へと進展する。
初期の症状は、難聴と耳鳴とめまいであり、突発性難聴やメニエール病のような症状で発症することが多く、問診や聴力検査だけでは区別ができないが、ABR(auditory brainstem evoked responseの略、聴性脳幹反応)といい、音を聞いてもらいながら脳波を記録するような検査や、MRIで診断できる。
耳鼻咽喉科と脳神経外科の境界領域の疾患ではあるが、初発症状が蝸牛症状やめまいなので、耳鼻科を初診することが多い。治療は手術的に腫瘍を摘出するか、放射線療法の一つであるガンマナイフかということになるが、腫瘍の部位や残った聴力の程度などにより検討する。また、手術に際しては聴力を残すか、あきらめるか、顔面神経へのダメージの危険をいかに避けるかということが問題となる。もう一つの選択としては、MRIを定期的に行って経過をみていくということもある。ただし、この場合もいずれ何らかの治療が必要となる可能性はある。
[遅発性内リンパ水腫]
もともと片耳の高度な感音性難聴(最初の病名はウイルス性難聴や突発性難聴など様々)があって、一旦は聴力が固定して落ち着いていたものが、数年を経て同じ耳の半規管の障害が原因となりメニエール病に似た回転性のめまい発作を起こすもの(同側型)と、反対側の耳の難聴、耳閉感が出現して、めまいも伴うもの(対側型)がある。
同側型では、聴神経腫瘍との鑑別が特に重要となるし、対側型ではたまたま反対側に生じたメニエール病との鑑別が難しいケースもある。
その他にも、急激に起こる感音性難聴としてはムンプス難聴などのウイルス性難聴があるし、発作的に難聴を繰り返すものとしては原田氏病という自己免疫疾患などもある。
耳鼻科の話にはを見ても分かるとおり、耳、鼻、咽喉頭などの部位別「タグ」を付けているのですが、エントリー数は鼻(34)、耳(29)、のど(26)となっており、もうちょっと耳の話題を頑張って提供しようと思っているところでした。
さて、というわけで今回も耳の話です。
前回のエントリーでは、突発性難聴(TVやネットのニュースでは”突発性内耳障害"という病名を使っていますが、”突発性難聴”の方が病名としては一般的です。)を中心にお話ししました。今回は突発性難聴と同様に、急に起こる感音性難聴として発症して、時として耳鳴やめまい発作を伴いながら、感音難聴が進行するような疾患をいくつか列挙してご説明したいと思いまので、興味のある方は目を通してみて下さい。
[突発性難聴]
特別な誘因がなくある日突然発症する内耳性難聴。症状は突然聞こえなくなることであるが、耳鳴りやめまい、聴覚過敏などを伴うことも多い。直接的な原因は内耳へのウイルス感染、内耳の微小循環障害、自己免疫(自分の身体を攻撃しようとする抗体が作られ、内耳をターゲットとして認識、破壊する)などが考えられていえる。風邪症状や過度の心的ストレス、過重労働などによる体力的な疲れなどがあると発症しやすい。
内耳は耳を構成している器官としては最も深部にあり、しかも微細な構造が聞こえの機能を支えているので、なかなか原因が絞りきれないことと、おそらく個々のケースでにおいて原因が異なることも診療を難しくしている。
ステロイドの点滴療法は有効といわれているが、必ずしも全例に効果があるわけではないので、その他には高圧酸素療法、抗ウイルス剤の点滴、ビタミン剤、循環改善剤などを組み合わせて治療する。発症後の時間経過とともに、治る確率は低くなってくるので、早期の治療開始が望ましい。
[ 急性低音障害型感音難聴]
比較的新しい疾患概念であるため、低音障害型突発難聴、低音型突発性難聴、急性低音障害型感音性難聴などなど様々な病名で呼ばれ、未だ統一されていない。
内耳のトラブルが原因で、ある日突然聞こえが悪くなるのは突発性難聴と同様であるが、当疾患では125〜500 Hz(ヘルツ)の低音のみの聞こえが障害され、また比較的治りやすいので、突発性難聴とは病態が異なるものと考えられている。症状は突然の難聴であるが、耳閉感(じへいかん;耳の塞がる感じ)の強いことが特徴である。多くの場合片側だけかかるが、両側に発症することもある。めまいは伴わず、もし耳閉感とともにめまいが起こる場合はメニエール病の可能性が高くなる。
直接的な原因はメニエール病と同様に内リンパ水腫が考えられている。発症のきっかけとなるのは過重労働や人間関係などによる心理的、体力的ストレスや寝不足などのことが多い。
治療にはステロイドが有効であるが、高浸透圧利尿剤(イソバイド、メニレットゼリー)で充分という意見もあるし、自然治癒も多いので安静とビタミン剤のみで数日間は様子を見て良いという意見もある。
ほとんどのケースは数日程度で改善するが、一部、発症後難聴がさらに進行するケースもある。また繰り返すケースもあり、その場合メニエール病との区別が難しくなる。
[メニエール病]
メニエル病、メニエル氏病ともいう。
難聴、耳鳴、めまいを三主徴とする。めまいを伴わないものは蝸牛型メニエール病というが、低音障害型感音性難聴との鑑別が難しい。かつて、めまいがすれば全てメニエール病といわれた時代があったが、実際にはめまい症例のうちに占める割合としては数パーセント程度と思われ、さほど頻度は高くない。
難聴は発症時は低音障害型が多いが、発作を繰り返す毎に水平型に近づく。耳鳴は非発作時にも持続することもあるが、発作時に強くなる。めまいは発作時には回転性(周りがぐるぐる回る、自分がぐるぐる回る)であるが、ある程度落ち着いてくるとフワフワした感じや、まっすぐ歩こうっとしてもどちらかに寄りそうな感じになる程度であることも多い。
治療は薬物療法が中心で、非発作時には高浸透圧利尿剤(イソバイド、メニレットゼリー)、ビタミンB12などを内服するが、発作時にはそれに加えてステロイドを用いることも多い。また、発作に対する恐怖が強く、それがまたストレスになり発作を誘発してしまうような場合には、精神安定剤や抗不安薬も併用する。めまいに対しては手術も有効なケースもあるが、進行したメニエール病の聴力を改善させる術式は、現在のところはない。
[聴神経腫瘍]
第八脳神経である聴神経にできる神経鞘腫。良性の脳腫瘍である。内耳道(ないじどう)といういわば聴神経を入れた、骨で囲まれた通路の中にできるが、大きくなると頭蓋内の小脳と脳幹の境目の方向へと進展する。
初期の症状は、難聴と耳鳴とめまいであり、突発性難聴やメニエール病のような症状で発症することが多く、問診や聴力検査だけでは区別ができないが、ABR(auditory brainstem evoked responseの略、聴性脳幹反応)といい、音を聞いてもらいながら脳波を記録するような検査や、MRIで診断できる。
耳鼻咽喉科と脳神経外科の境界領域の疾患ではあるが、初発症状が蝸牛症状やめまいなので、耳鼻科を初診することが多い。治療は手術的に腫瘍を摘出するか、放射線療法の一つであるガンマナイフかということになるが、腫瘍の部位や残った聴力の程度などにより検討する。また、手術に際しては聴力を残すか、あきらめるか、顔面神経へのダメージの危険をいかに避けるかということが問題となる。もう一つの選択としては、MRIを定期的に行って経過をみていくということもある。ただし、この場合もいずれ何らかの治療が必要となる可能性はある。
[遅発性内リンパ水腫]
もともと片耳の高度な感音性難聴(最初の病名はウイルス性難聴や突発性難聴など様々)があって、一旦は聴力が固定して落ち着いていたものが、数年を経て同じ耳の半規管の障害が原因となりメニエール病に似た回転性のめまい発作を起こすもの(同側型)と、反対側の耳の難聴、耳閉感が出現して、めまいも伴うもの(対側型)がある。
同側型では、聴神経腫瘍との鑑別が特に重要となるし、対側型ではたまたま反対側に生じたメニエール病との鑑別が難しいケースもある。
その他にも、急激に起こる感音性難聴としてはムンプス難聴などのウイルス性難聴があるし、発作的に難聴を繰り返すものとしては原田氏病という自己免疫疾患などもある。

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
>22:53鍵さん、突発性難聴はやはり原因がいろいろで、自己免疫が関係しているのも、おそらく含まれていると思いますが、いまのところ、その辺の振り分けが難しいのがネックです。
0

ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
>鍵コメさん、了解です。

先生、はじめまして。
昨年の秋頃、朝起きたら耳に膜が張ったような感じがして耳鼻科へいくと低音が聞こえにくくなっていると言われ、イソバイド、アデホスコーワ、メチコバールで治療を開始して10日程で回復したのですが、その一週間後に低音部が60db高音部が40dbまで下がったため、プレドニン、五苓散に、イソバイドを除く上記の薬で治療し、日常生活に差し支えの無い程度まで聴力はもとに戻ったようにおもいます。
現在、メニエルの疑いがあるとのことで通院5ヶ月目になります。こんなに長く耳鼻科に通うのは初めてのことです。
少しでも病気について理解したいとネットを調べてい
たところこちらのブログにたどり着きました。
耳鼻科のお医者さんが書いているブログは少ないので、こちらで色々と勉強させていただいております。
内耳の図解など大変参考になります。(とはいっても
この中のどこに水腫ができるのだろうかと想像してみるだけですが(笑)
病気になって初めて、耳の大切さを痛感しています。
では、またお邪魔させて頂きます。
昨年の秋頃、朝起きたら耳に膜が張ったような感じがして耳鼻科へいくと低音が聞こえにくくなっていると言われ、イソバイド、アデホスコーワ、メチコバールで治療を開始して10日程で回復したのですが、その一週間後に低音部が60db高音部が40dbまで下がったため、プレドニン、五苓散に、イソバイドを除く上記の薬で治療し、日常生活に差し支えの無い程度まで聴力はもとに戻ったようにおもいます。
現在、メニエルの疑いがあるとのことで通院5ヶ月目になります。こんなに長く耳鼻科に通うのは初めてのことです。
少しでも病気について理解したいとネットを調べてい
たところこちらのブログにたどり着きました。
耳鼻科のお医者さんが書いているブログは少ないので、こちらで色々と勉強させていただいております。
内耳の図解など大変参考になります。(とはいっても
この中のどこに水腫ができるのだろうかと想像してみるだけですが(笑)
病気になって初めて、耳の大切さを痛感しています。
では、またお邪魔させて頂きます。
zebraさん、ようこそ!
耳、特に内耳の構造や働きは結構複雑ですから、なかなか説明するにも
難しいところがあります。出来るだけ分かりやすくと思い、イラストを
多く入れて説明するよう努めています。イラストも自分で描いて
いるので時間がかかってしまうのですが、それでも参考になったと
いっていただけると、記事を書く励みになります。
コメントありがとうございます。
耳、特に内耳の構造や働きは結構複雑ですから、なかなか説明するにも
難しいところがあります。出来るだけ分かりやすくと思い、イラストを
多く入れて説明するよう努めています。イラストも自分で描いて
いるので時間がかかってしまうのですが、それでも参考になったと
いっていただけると、記事を書く励みになります。
コメントありがとうございます。


現在入院しています。、
初めの診断は、突発性難聴と言われ
入院して9日になりますが回復の兆しがないので
心配になり
主治医に聞きましたら急性感音性難聴といわれました。
ネットで探しましたら、ここのブログにたどり着きました。
非常に参考になりました。
突発性難聴と急性感音性難聴の違いも理解できました。
ありがとうございました。
初めの診断は、突発性難聴と言われ
入院して9日になりますが回復の兆しがないので
心配になり
主治医に聞きましたら急性感音性難聴といわれました。
ネットで探しましたら、ここのブログにたどり着きました。
非常に参考になりました。
突発性難聴と急性感音性難聴の違いも理解できました。
ありがとうございました。
by jibikai
| 2008-01-11 12:44
| 耳のはなし
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Comments(10)