耳鼻科医のお絵かき〜急性中耳炎〜
2008年 08月 11日
耳鼻科に限らず、どんな科でもそうなのでしょうが、診療の流れというのは、まず症状を患者さんから聞いて、診察して診断、病状について説明して、処方や治療を行うということになろうかと思います。これまでの名医というのは診断が確かであるとか、腕がよいとか、主に診断と治療という面から評価されることが多かったように思います。しかし近年では、診療の能力に加えて、患者さんへ説明の能力というのも重要な要素になってきていると思います。
耳鼻科医をやっていて、患者さんへの説明という点で特に難しいと思うのは、病状について口でいくら説明しても、なかなかはっきり理解してもらえないことです。耳鼻科の病気というのは、耳や鼻やノドの奥など、どれも複雑な迷路の様な構造をしている、しかも体表から離れた奥の方で起こるというのが、その主な理由です。また、耳鼻科というのは内科などに比べますと、1日あたりの来院数は多くなりがち(その割には収入は少ないのですが)で、逆に言えば一人一人の患者さんにかけられる時間は制限されます。そんな事情もありまして、混んでいるときには、どうしても説明にかけられる時間が十分にはとれなくなってしまいます。また、いくら時間をかけて説明したつもりでも、良く理解してもらえなかったりすることもあります。
そこで、現在 取り組もうとしているのは、説明用のパンフレット作りです。主だった疾患については、製薬会社が医療機関に無料で配っているパンフレットが結構あるのですが、なかなか満足できるものがないし、疾患の種類も限られていますので、自分で作ってみようと考えたわけです。パンフレットならば、後で見返してもらうことにより、診療時間内で理解しきれなかったことも、「ああ、そういうことか。」と理解できることもあるのではないでしょうか。
まずは、「急性中耳炎」についてのパンフレットを作っているところです。「百聞は一見にしかず。」ということで、イラストには力を入れています。ワープロで作って印刷して、診察の時にお渡しするのと、PDFにして公式サイトからダウンロードして読んでもらうなどの利用法を考えています。今回はブログへの転載ということで、実際のパンフレットのレイアウトとはちょっと違ってしまうのですが、ちょっと紹介してみます。
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急性中耳炎について
急性中耳炎とは?
細菌やウイルスの感染によって引き起こされる中耳炎で、多くの場合はカゼ引きの時に起こります。特に小さな子供に多く、カゼに続発して、耳の痛みや、耳だれを引き起こします。特に保育所などで集団生活をしている子供は、かかりやすい傾向にあります。
原因となる病原体は?
肺炎球菌やインフルエンザ菌が多く、特に耐性菌といって抗生物質に抵抗を示す菌が増えています。細菌以外では、アデノウイルスなどが関係していると思われます。
罹りやすいのは?
4歳以下の子供、その中でも特に、2歳以下の乳幼児で、保育所などに預けられている子供には多発します。しかもこのように早くから預けられている子では、重症化して長引く傾向にあります。
それは、細菌に対する抵抗力が不十分なうちから、年長児などの持ち込んだ細菌の洗礼を浴びることによります。保育所を休ませれば、多くの場合急性中耳炎は治りますが、家庭の事情などで、なかなか休ませられないことが多いのが課題となります。
病気の起こり方と症状
急性中耳炎は、ほとんどがカゼに続発して起こります。それは、鼻の奥と中耳が連続しているからなのですが、感染の広がる様子や、それに伴う症状などを図で説明します。
1.鼓室への細菌の侵入
カゼの時には鼻の奥の上咽頭という部分に細菌が繁殖しているのですが、それが耳管(鼻の奥と耳をつないでいる管)を通って、鼓室へと侵入します。
2.鼓室粘膜、鼓膜の炎症

細菌の感染により鼓室粘膜や鼓膜に炎症が起き、充血して腫れるので、この時期に診察すると、鼓膜は赤く見えます。鼓室粘膜や耳管に本来備わっている、自浄作用などの機能が炎症により低下します。
3.膿の貯留
細菌の活動により、鼓室内では膿(うみ)が作られますが、耳管の働きが悪くなっているため、うまく排泄されず、鼓室内に溜まっていきます。症状としては耳の痛みや、耳がゴロゴロとした様な違和感がだんだんと強くなってきます。 この時期に診察すると、鼓膜の裏側に膿の溜まっている様子が分かります。
4.膿の充満

さらに膿が増えてくると周囲を圧迫しますので、我慢できないほど強い痛みになります。2歳 以下のまだ上手にお話しできない子の場合は、痛みを訴えられないので、理由もなく不機嫌だということで、耳鼻科に連れてこられて急性中耳炎であることが判明する、ということも多いです。 この状態ですと、鼓膜はがなり盛り上がっているように見えます。
5.耳漏の流出
その後も膿が増え続けるとやがては鼓膜を破って膿が外耳道へと流れ出します。これが、耳漏(じろう;いわゆる”耳だれ”)ですが、一旦膿が耳漏として流れ出してしまうと、中耳の内圧は下がりますから、痛みは和らいできます。
その後の経過 鼻の奥や中耳の炎症が治まってくれば、新しく作られる耳漏もなくなってきます。鼓膜に開いた穴も徐々に閉じて治っていきます。 しかし、身体の免疫力よりも菌の増殖力の方が強い場合、また、耐性菌といって抗生剤の効き難い菌が原因の場合は、耳漏がなかなか止まらず、中耳粘膜も正常化しないため、なかなか治らないこともあります。また、菌がいなくなった後も、中耳に水や粘液が残ったままとなり、痛みはないものの、聞こえにくい状態だけが続くこともあります。
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以上のような内容で、さらには「治療について」、「Q&A」と続きますが、大分長くなったので、こちらは割愛します。
他にも、色々な疾患についてパンフレットを作ってみようと思っていますが、なにぶんにも手作りですので、時間がかかります。それでも、新作が出来ましたら、こちらでも紹介していきたいと思っています。
耳鼻科医をやっていて、患者さんへの説明という点で特に難しいと思うのは、病状について口でいくら説明しても、なかなかはっきり理解してもらえないことです。耳鼻科の病気というのは、耳や鼻やノドの奥など、どれも複雑な迷路の様な構造をしている、しかも体表から離れた奥の方で起こるというのが、その主な理由です。また、耳鼻科というのは内科などに比べますと、1日あたりの来院数は多くなりがち(その割には収入は少ないのですが)で、逆に言えば一人一人の患者さんにかけられる時間は制限されます。そんな事情もありまして、混んでいるときには、どうしても説明にかけられる時間が十分にはとれなくなってしまいます。また、いくら時間をかけて説明したつもりでも、良く理解してもらえなかったりすることもあります。
そこで、現在 取り組もうとしているのは、説明用のパンフレット作りです。主だった疾患については、製薬会社が医療機関に無料で配っているパンフレットが結構あるのですが、なかなか満足できるものがないし、疾患の種類も限られていますので、自分で作ってみようと考えたわけです。パンフレットならば、後で見返してもらうことにより、診療時間内で理解しきれなかったことも、「ああ、そういうことか。」と理解できることもあるのではないでしょうか。
まずは、「急性中耳炎」についてのパンフレットを作っているところです。「百聞は一見にしかず。」ということで、イラストには力を入れています。ワープロで作って印刷して、診察の時にお渡しするのと、PDFにして公式サイトからダウンロードして読んでもらうなどの利用法を考えています。今回はブログへの転載ということで、実際のパンフレットのレイアウトとはちょっと違ってしまうのですが、ちょっと紹介してみます。
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急性中耳炎について
急性中耳炎とは?
細菌やウイルスの感染によって引き起こされる中耳炎で、多くの場合はカゼ引きの時に起こります。特に小さな子供に多く、カゼに続発して、耳の痛みや、耳だれを引き起こします。特に保育所などで集団生活をしている子供は、かかりやすい傾向にあります。
原因となる病原体は?
肺炎球菌やインフルエンザ菌が多く、特に耐性菌といって抗生物質に抵抗を示す菌が増えています。細菌以外では、アデノウイルスなどが関係していると思われます。
罹りやすいのは?
4歳以下の子供、その中でも特に、2歳以下の乳幼児で、保育所などに預けられている子供には多発します。しかもこのように早くから預けられている子では、重症化して長引く傾向にあります。
それは、細菌に対する抵抗力が不十分なうちから、年長児などの持ち込んだ細菌の洗礼を浴びることによります。保育所を休ませれば、多くの場合急性中耳炎は治りますが、家庭の事情などで、なかなか休ませられないことが多いのが課題となります。
病気の起こり方と症状
急性中耳炎は、ほとんどがカゼに続発して起こります。それは、鼻の奥と中耳が連続しているからなのですが、感染の広がる様子や、それに伴う症状などを図で説明します。
1.鼓室への細菌の侵入

2.鼓室粘膜、鼓膜の炎症

3.膿の貯留

細菌の活動により、鼓室内では膿(うみ)が作られますが、耳管の働きが悪くなっているため、うまく排泄されず、鼓室内に溜まっていきます。症状としては耳の痛みや、耳がゴロゴロとした様な違和感がだんだんと強くなってきます。 この時期に診察すると、鼓膜の裏側に膿の溜まっている様子が分かります。
4.膿の充満

さらに膿が増えてくると周囲を圧迫しますので、我慢できないほど強い痛みになります。2歳 以下のまだ上手にお話しできない子の場合は、痛みを訴えられないので、理由もなく不機嫌だということで、耳鼻科に連れてこられて急性中耳炎であることが判明する、ということも多いです。 この状態ですと、鼓膜はがなり盛り上がっているように見えます。
5.耳漏の流出

その後の経過 鼻の奥や中耳の炎症が治まってくれば、新しく作られる耳漏もなくなってきます。鼓膜に開いた穴も徐々に閉じて治っていきます。 しかし、身体の免疫力よりも菌の増殖力の方が強い場合、また、耐性菌といって抗生剤の効き難い菌が原因の場合は、耳漏がなかなか止まらず、中耳粘膜も正常化しないため、なかなか治らないこともあります。また、菌がいなくなった後も、中耳に水や粘液が残ったままとなり、痛みはないものの、聞こえにくい状態だけが続くこともあります。
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以上のような内容で、さらには「治療について」、「Q&A」と続きますが、大分長くなったので、こちらは割愛します。
他にも、色々な疾患についてパンフレットを作ってみようと思っていますが、なにぶんにも手作りですので、時間がかかります。それでも、新作が出来ましたら、こちらでも紹介していきたいと思っています。
こんばんは リニューアルしたんですね!
さすがアカデミックなイラストですね!中耳炎の事はあまりよく知りませんでしたが、イラストもあってわかりやすかったです。
さすがアカデミックなイラストですね!中耳炎の事はあまりよく知りませんでしたが、イラストもあってわかりやすかったです。
0
osha-p さん、おはようございます。
久しぶりにスキン変更してみました。
今回のイラストは、FLASHで書きましたが、静止画を書くにも
意外と重宝することを、改めて発見しました。中耳の病変は割と
ビジュアル的に表現しやすいのですが、内耳の方は難しいです。
久しぶりにスキン変更してみました。
今回のイラストは、FLASHで書きましたが、静止画を書くにも
意外と重宝することを、改めて発見しました。中耳の病変は割と
ビジュアル的に表現しやすいのですが、内耳の方は難しいです。

初めまして。中耳炎になった時の、耳が詰まる感じから、だんだん痛くなってきて ズキーンズキーンと激痛がする感じ…鼓膜の奥でこうなっていたからなんですね!とってもわかりやすかったです!なんだか今初めてちゃんと理解ができたので、とてもスッキリしました。
あいさん、耳の中は見えませんからイメージしづらいですよね。
記事が参考になってうれしいです。
記事が参考になってうれしいです。
by jibikai
| 2008-08-11 16:09
| 耳のはなし
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Comments(4)