医学部定員増! 〜手放しで喜んでいいのか?〜

たまには、時事ネタを。ということで、今朝のトピックスから。
以下、コピペです。
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医学部定員5割増 厚労省提言
8月29日8時2分配信 産経新聞

 医師不足解消に向けた政府の中長期的対応策を検討してきた厚生労働省の「医療確保ビジョン具体化に関する検討会」(座長・高久史麿自治医科大学長)は、将来的に大学医学部の定員を現在の50%増とすることなどを盛り込んだ中間報告をまとめた。予算編成や政策に反映させていく。

 50%増が実現すると、大学医学部の定員は学年当たり1万2000人程度になる。中間報告は、経済協力開発機構(OECD)の平均医師数などを参考に、医師数増を打ち出した。

 また、地方での医師不足の原因となったといわれる臨床研修制度のあり方を見直すべきだと提言。産科、救急科、僻地(へきち)など負担が大きい医療現場で働く医師へのサポート体制強化や、手当支給などの検討の必要性にも触れた。

最終更新:8月29日8時2分

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以上、コピペ終了。

現在の医療の抱えている問題、例えば医師の過重労働や、夜間の急患に手厚く対処できないこと、地方の基幹病院からの産科撤退、などなどは医師不足が原因であることには間違いありません。また医師不足を生んでいるのは、近年の政策として、医学部定員の削減と、後期研修医制度により実質上医局から人事権を剥奪したこと、医療費抑制政策などがあることもまた、間違いないでしょう。
 
確かに医学部の定員を増やすことは、医師不足改善策としては当然やらなくてはいけないことなので、賛成なのですが、この記事を読む限りでは、懸念材料もないわけではありません。それは、医療費の増額については全く触れられていない点です。大雑把な計算では、医療費全体(年間約30兆円)を実際臨床に携わっている医師数(約30万人)で割ると、医師一人あたり1億円ということになるのですが、それには医師の人件費に加えて、医師とともに働くコメディカル(看護師、事務員、検査技師、薬剤師など)の人件費、薬剤などの材料費、医療機器や土地・建物の償却費などが含まれます。

さて、医師数だけ増やして、もし医療費をそれに見合った分 増額しなかったらどうなるのでしょう。医師数、すなわち分母のみが増えるわけですから、医師一人あたりの医療費が少なくなります。これはこれで、かなりまずい事態になるのではないでしょうか。まずは医師とコメディカルの一人あたりの人件費削減や、必要な医療機器の導入も見送らざる終えないケースも出てくることでしょう。しばらく前から、歯科医師のワーキング・プア化が言われていますが、医師のワーキング・プア化も避けられないかも知れません。(それで定員の増えた医学部に、優秀な学生が集まるものなのか、非常に疑問。)また、医者が頭数だけが充分にそろっても、コメディカルが少ない状態とか、検査しようにも器械が旧式のしかないような状態では、満足な活躍はできないでしょうね。優秀で英語のできる医者は、同じく医師不足であるアメリカにスカウトされるようになるんじゃないかなんて推測も、ある本で読んだこともありますが、それもあり得ない話じゃないかも知れません。

もし医師数を増やして、しかも医療の質を上げるためには医療費全体がそれに見合っただけ増えるのもやむなしと政府が考えていて、それを現在の保険医療制度でまかなおうとするのであれば、それは医療に従事するものとしては大歓迎ですが、数兆円規模で増える財源をどうするかという問題があります。税金の無駄遣いは是非減らして、医療に回して欲しいところですが、それ以外にも健康保険料の増額か、増税も必要と思われます。

言い換えれば、医療の質と量をどうするのかということが、今 問題となっているのでしょう。量を増やして質を落として良いのか、それとも、量も質も上げろというのであれば金がかかるが、その場合は財源はどうするのかということです。金は出さないが、量も質も上げろというのは、絶対に無理なことです。

もしこのまま、国が医療費削減を持続するのであれば、いずれは現在の国民皆保険という医療制度は、国が自ら放棄するか、国民の富裕層がそれだけでは満足しないからという理由で、あるいは貧困層が保険料を払えないからとういう理由で離脱する方向に仕向けて行こうするのか分かりませんが、いずれにしても崩壊するしかないのかも知れません。

今回の、医学部定員増の記事、どうも手放しで喜ぶわけにはいかず、しばらく動向を見守っていく必要があるように感じました。
Commented at 2008-08-29 12:42
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by jibikai at 2008-08-29 13:45
> 鍵コメさん、了解です。
by jibikai | 2008-08-29 12:01 | Comments(2)

山形市の耳鼻咽喉科 あさひ町榊原耳鼻咽喉科  院長のブログ


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