耳鼻科医のお絵かき〜コルチ器の構造と働き〜
2009年 01月 22日
1月9日のエントリー「耳鼻科医のお絵かき〜蝸牛の構造〜」からの続きです。

前回は渦巻き状になっている蝸牛の断面は、鼓室階と前庭階という外リンパで満たされ腔と、中央階(蝸牛管ともいいます)という内リンパ液で満たされた腔とに分けられること、中央階と鼓室階を分ける基底板の上にはコルチ器という構造が乗っかっていることを説明しました。
さて、今回はコルチ器の微細な構造と、鼓室階を伝わってきたリンパ液の振動がいかに神経の興奮に変換されるかということを説明したいと思います。
コルチ器の微細な構造ですが、重要な構造としてはまず、内有毛細胞と外有毛細胞があります。内有毛細胞は1列、外有毛細胞は3列に並んでいます。内、外それぞれの有毛細胞には聴毛(ちょうもう)という毛のような物が生えています。さらには蓋膜という構造が聴毛の先端を覆っています。外有毛細胞の聴毛は蓋膜に刺さるようにしっかりと連結していますが、内有毛細胞の聴毛は、蓋膜から僅かに離れています。
鼓室階を伝わってきたリンパ液の振動はまず基底板を揺らします。基底板の振動によって聴毛の角度が変化して、内リンパ液に多く含まれるカリウムイオン(K+)は、内および外有毛細胞内に流入します。内有毛細胞には求心性神経が多数連結しており、活動電位として音の信号を脳へと伝えます。一方、外有毛細胞は細胞内のイオン濃度の変化に応じて素早く伸縮を繰り返して、さらに基底板の振動を増幅します。これによって、さらに多くの活動電位が生じます。ということで、外有毛細胞の主な働きは、音の信号の増幅ということがいえます。ささやき声のような小さな音まで聞き取れるのは、外有毛細胞の働きによるところが大きいのです。逆に、外有毛細胞に障害が生じると、音を聞く時の聞き取りやすい音圧(いわば音量)の幅が狭くなってしまいます。難聴があるのに、ある一定の音量を超えるとうるさく聞こえる、響く感じがするなどという症状は、外有毛細胞の障害によるところが大きいと考えられます。
また中央階の外側には、血管条という構造がありますが、ここでは一度有毛細胞に取り込まれたカリウムイオンを、再び中央階内の内リンパ液に戻していく働きをしています。
以上がコルチ器の構造と働きです。非常に複雑かつ巧みな仕組みといえますが、複雑故に不調になることもあるわけで、感音難聴の多くはこのコルチ器を中心とした部分のトラブルで起こります。次回は、そういったコルチ器を中心とした内耳のトラブルによる感音難聴について考えていきたいと思います。
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コルチ器の微細な構造ですが、重要な構造としてはまず、内有毛細胞と外有毛細胞があります。内有毛細胞は1列、外有毛細胞は3列に並んでいます。内、外それぞれの有毛細胞には聴毛(ちょうもう)という毛のような物が生えています。さらには蓋膜という構造が聴毛の先端を覆っています。外有毛細胞の聴毛は蓋膜に刺さるようにしっかりと連結していますが、内有毛細胞の聴毛は、蓋膜から僅かに離れています。
鼓室階を伝わってきたリンパ液の振動はまず基底板を揺らします。基底板の振動によって聴毛の角度が変化して、内リンパ液に多く含まれるカリウムイオン(K+)は、内および外有毛細胞内に流入します。内有毛細胞には求心性神経が多数連結しており、活動電位として音の信号を脳へと伝えます。一方、外有毛細胞は細胞内のイオン濃度の変化に応じて素早く伸縮を繰り返して、さらに基底板の振動を増幅します。これによって、さらに多くの活動電位が生じます。ということで、外有毛細胞の主な働きは、音の信号の増幅ということがいえます。ささやき声のような小さな音まで聞き取れるのは、外有毛細胞の働きによるところが大きいのです。逆に、外有毛細胞に障害が生じると、音を聞く時の聞き取りやすい音圧(いわば音量)の幅が狭くなってしまいます。難聴があるのに、ある一定の音量を超えるとうるさく聞こえる、響く感じがするなどという症状は、外有毛細胞の障害によるところが大きいと考えられます。
また中央階の外側には、血管条という構造がありますが、ここでは一度有毛細胞に取り込まれたカリウムイオンを、再び中央階内の内リンパ液に戻していく働きをしています。
以上がコルチ器の構造と働きです。非常に複雑かつ巧みな仕組みといえますが、複雑故に不調になることもあるわけで、感音難聴の多くはこのコルチ器を中心とした部分のトラブルで起こります。次回は、そういったコルチ器を中心とした内耳のトラブルによる感音難聴について考えていきたいと思います。

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おはようございます(あっ?もうすぐお昼ですが・・・(^^;;
有毛細胞は障害されると再生されないという事のようですが、有酸素運動で長年中等度難聴程度であっても、まったくの正常ラインまで聴力が戻った症例があるらしいのですが、その有毛細胞が復旧したプロセスが知りたいところです。そんな症例があると、努力すると治るよ、と言われてるように感じてしまいますが、ホントなの?今さら、、、なんですけどね・・・(^^;;
有毛細胞は障害されると再生されないという事のようですが、有酸素運動で長年中等度難聴程度であっても、まったくの正常ラインまで聴力が戻った症例があるらしいのですが、その有毛細胞が復旧したプロセスが知りたいところです。そんな症例があると、努力すると治るよ、と言われてるように感じてしまいますが、ホントなの?今さら、、、なんですけどね・・・(^^;;
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osha-pさん、同じ内耳性難聴でも、障害される部位は
有毛細胞だったり、血管条だったり、ライスネル膜だったり、
あるいは蓋膜だったりと疾患により異なるのだと思います。
再生不能なものが多い中、何かしら元に戻りうる病態が
あるのでしょうね。それが何か、あるいはメカニズムまでは
なかなか分かりませんが・・・
有毛細胞だったり、血管条だったり、ライスネル膜だったり、
あるいは蓋膜だったりと疾患により異なるのだと思います。
再生不能なものが多い中、何かしら元に戻りうる病態が
あるのでしょうね。それが何か、あるいはメカニズムまでは
なかなか分かりませんが・・・

momoさん、こんばんは。
耳について興味を持っていただけて嬉しいです。
耳や聞こえについての一般向けの本は、おそらくいくつか
ありそうですが、ちょっとリサーチしてませんでした。
私自身は、ニュートンムックの脳の特集号を先日買いました。
耳については数ページしか記載がないのですが、イラストが
キレイなのはいいですね。
耳について興味を持っていただけて嬉しいです。
耳や聞こえについての一般向けの本は、おそらくいくつか
ありそうですが、ちょっとリサーチしてませんでした。
私自身は、ニュートンムックの脳の特集号を先日買いました。
耳については数ページしか記載がないのですが、イラストが
キレイなのはいいですね。

momoさん、ニュートンムック結構
おもしろいでしょう!?
ニュートンムック以外にも、科学を分かりやすく
説明しているシリーズ物もあったように思うのですが、
今度お勧めのを見つけたら、ブログで紹介したいと思います。
おもしろいでしょう!?
ニュートンムック以外にも、科学を分かりやすく
説明しているシリーズ物もあったように思うのですが、
今度お勧めのを見つけたら、ブログで紹介したいと思います。

上では控えめに表現しましたが・・かなり面白かった(笑)
耳の構造なども、まだまだ未知なる部分がたくさんあり、しかも凄く小さい(驚)!
自分の病気が治るのは「まだ先」と言うショックよりも、楽しいが先でした(笑)
やばい。治っちゃうかも♪
こういう発見があるなんて思ってもいませんでした。
病気も悪くないですね。
入り口と出口は一つだと思っていたけど、楽しいわき道発見です。
うふふ。
もっと早く出会いたかった~。
お勧め見つけたら教えてくださいね(^^)
耳の構造なども、まだまだ未知なる部分がたくさんあり、しかも凄く小さい(驚)!
自分の病気が治るのは「まだ先」と言うショックよりも、楽しいが先でした(笑)
やばい。治っちゃうかも♪
こういう発見があるなんて思ってもいませんでした。
病気も悪くないですね。
入り口と出口は一つだと思っていたけど、楽しいわき道発見です。
うふふ。
もっと早く出会いたかった~。
お勧め見つけたら教えてくださいね(^^)
by jibikai
| 2009-01-22 00:53
| 耳のはなし
|
Comments(8)